新潟・越後の言葉で語る昔ばなし

子供に昔話を読んだ後、少々のアレンジを加えて、故郷の言葉で語ってみたこて。

『ふるやの もり』

「ふるや」ってなに? 「もり」ってなんらろか?

古家、古屋、古谷、古矢、降る、振る?

森、杜、守り、銛、漏り、盛り?

 

いろんな漢字が去来して、頭が混乱するこのタイトル。

 

「古家の森」……熊さんが住んでる?

「古谷の杜」……神社があって?

「古谷の守り」……古い時代にもナウシカみたいな?

まさか「降る矢の守」「振る八の銛」とか……神話?戦争話?

ひょっとして「(名)古屋の盛」……味噌カツ丼大盛?    まさかね!

 

なにー?  「ふるやのもり」って?

 

幼児向けにひらがなで書いてあっからさ 、なおさらのこと、想像のつかねかったこの話。さーて、読んでみっか。

 

 

ふるやのもり (みんなでよもう!日本の昔話)

ふるやのもり (みんなでよもう!日本の昔話)

 

 

 むかーし昔。

山ん中のふーるいあばら屋に、じいさんとばあさんが住んでいたこて。

二人は馬がでぇー好きで、1頭の子馬をかーうぇがっていたんやぁ(=二人は馬が大好きで、1頭の子馬を可愛がっていた)。

 

さて、嵐の近づくある晩のことら。

 

馬小屋に、馬泥棒が忍び込んだてや。嵐が来そうらすけ、雨風の音に紛れて、馬を連れだそう、盗み出そうってのらな。

泥棒が梁(はり)に上って、じっと様子をうかがっているところに。

今度は、そろーりそろりと、虎狼(とらおおかみ)が現れた。

ふん、ふん。人の匂いがするろ。ふん、ふん。馬の匂いもするろう。今夜はこの家の人間を食うか、馬を食うか。

 

そんがのおっかねことになってるなんか、わからねし、この頃は耳が遠ーぉなってるじいさんとばあさんのことら、でっーけ声で話していたいや。

「さて、今夜はどんがの嵐になっろのう。

……なあ、じいさん。この世でいっちおっかねもんはなんらろなあ(=この世で一番怖いものは何でしょうね)。」

「なに?  おっかねものか? そらな、おっかねのは、どろぼう。」

それを聞いた泥棒は、うれしなって、梁の上でニタニタ笑た。

「らけど、もっとおっかねのは、虎狼らな。」

 虎狼は得意んなって、耳をバサバサよごかしとう(=動かした)。

「はあはあ、そうらの。」

て、ばあさんがうなずいてっと、じいさんはまたゆうた。

「虎狼よりもっとおっかねのは、ふるやのもりらな。」

「ああ、そらの。ふるやのもりほど、あわてるもんはこの世にねえの。」

 

 泥棒も、虎狼も、たんまげたいや。

ふるやのもり?

この俺よりおっかねもんがこの世にいるんらと?  どこにいるてば?

 

ごうごう空で鳴る風が、真っ黒い雲次々連ってきて、しとしと雨が、ざあざあ大雨になってきとぅ。

うつら、うつらしてた子馬が目ぇ覚まして、ひんひん、ゆう声もかき消されるほどのどしゃ降りら。

 

バラッ、バラバラバラバラッ。

バラッ、バラッ。

バラバラバラバラッ、バラッ、バラッ。

     

雨宿りができるだけでもいかったなあ。

泥棒も虎狼も、正直ホッとしている、そのときらったて。

 

 「じいさん、てえへんらんやぁ!

はよ、鍋でも釜でも持ってきてくらっしぇー!

こーれはふるやのもりらてやあ!」

 

「うわっ、ふるやのもりが来たてらか!」

泥棒はたんまげて、逃げよとしたとたん、おおっとと、足を踏み外してぇ。

どさっ!

と、毛のふさふさした虎狼の上に落っこちたいや。

 「ひゃっ!ふるやのもりに乗っかっちまったぁ!」

 

虎狼の方も、びっくり仰天。

「うぉ!ふるやのもりが背中に取っついとぉ!  うぉおお、うぉおおおおー!」

虎狼は、ふるやのもりを振り落とそと思て、滝みとなどしゃ降りん中、飛び出しとう!

 

うおおおおおお、うおおおおおお!

 

必死に身体を振りながら走るも、

首っ玉にまたがった泥棒もまた、振り落とされてなるもんか、と、しがみつく。

振り落とさったら、そのあと、噛みつかれるか、食われるか! 泥棒らって必死らこて。

 

 うおおおおー。

 

食いついてくるか? 首締めてくるか? もう離れてくれてばー!

雨が目にへって見ぇーねろも、虎狼は死物狂いで走った、走った。

ぬかるむの畑を抜け、林の中へ。濡れた落ち葉の積もる林を抜け、野原の道へ。つる草の絡まる野原を抜け、ゴツゴツと岩の混じる山道へ。

 

うおおおおおおお、ああああああああーぁ!

 

どんがぐれ走っていたのらろう?

いつの間にか、雨はポツポツ小降りになって。東の空が白んで明るくなってきたいや。

 

はぁはぁ、はぁはぁ、もう振り落とす力なんか、出ね。限界ら。虎狼はくたびれながらもまだ走っていたいや。

 

雨に叩かれびしょ濡れになった泥棒も、ああ、嵐は去ったか、と、目をあけて。

ふるやのもりを見て、肝をつぶしたこて……。

うわあ、ふるやのもりてや、虎狼にそっくりらねっか……。もっとおっかねえ顔してぁんだろか?  

もう、つかまってる力も出ねがんね。どこか、どこか……。

 

道端に深い岩の割れ目が開いてる。そこめがけて、泥棒はぽーんと飛び込んだのらて。

 

はぁはぁ、はぁはぁ。

虎狼は、岩ばっかの坂道を駆け上がり、やっと、背中がかーるなっていたことに気がついとう。

 

はーあぁ。もう、動かんね。

ふーうぅ。死ぬかと思たれや。

なんともおっかねえめにおうたもんら。

 

草の上で虎狼が休んでいると。

 

見てたろ、見てたろ。

背中に乗してたのぁ、なにもんら?

俺も見た、見た。岩の間の穴に落ちていったろ。

山のけものたちが集まってきた。

 

「いやあ、人を食いに行ったら、ふるやのもりに取っ捕まってしもて。」

虎狼がきんのの夜の話をしたら、んーなが、俺も、俺も、ふるやのもりを見てみてぇ、という。

 

ふるやのもりは穴ん中ら。

嵐で土が流さって表れたのらろう、あんがのふっけえ岩の割れ目から、出られるろか?

 

生きてるのらろか?

へえ、死んでるんじゃねえか?

死んでたら、穴から出てこらんねろう。

 

見てねえ、見て、見て、

(=見たいねえ、見たい、見たい、)

ふるやのもり、見てみてーやぁ!

(=ふるやのもりを見てみたいねー!)

と、大合唱らてや。

 

木の上から、からすがゆうた。からすは虎狼のこと、おっかのねえすけな。

「その話がほんがらったら、虎狼、

おめのしっぽを穴に垂らして、様子うかがってみれ。」

「いやいやー、俺のしっぽはみーじこて、ふるやのもりの落ちてるとこまで届かねてば。だっか、いっちしっぽのなーげもんにやらせれや。」

 

だんら、しっぽがいっちなーげもんて(=誰だ?しっぽが一番長い者は)。

んーなが、んーなの顔と尻をながめたろ。

 

猿は、むかーし。しっぽがなーげて有名らった。

神さまがしっぽだけこねて延ばしてくっつけたのらろか?  それとも縄跳び遊びして伸びたのらろか?

わけはわからねろも、新体操のリボンみとな、誰よりもなーげしっぽを持ってたということら。

 

「おめら(=お前だ)。」

「おめ、おめ(=お前、お前)。」

「猿が行け。」

ゆうことんなって。

 

「えーっ、嫌らなぁ…。困ったなぁ…。」

猿は恐る、恐る、穴に近寄って行ったこて。

 穴に尻を向けて顔を上げると、虎狼やイノシシたちが、並んでじぃーっとこっちをにらんでいんのらもん。

しっぽを下ろすしか、仕方がねぇ。

 

そぉーっと、そぉーっと。

そぉーとな……。

 

 

穴ん中では、泥棒が途方にくれていたんや。

ふるやのもりに食わんねよう、穴に逃げこんだのはいい考えらったけど。

今度はふっけ穴から出らんねなっていたこて。

 

とっころが……。

 

岩のえーだから(=岩の間から)青空見上げていたら、しっぽが鼻先に。

ぷらん、ぷらんと、降りてきたねかて!

 

「おやーぁ、ありがてえ、ありがてえ。天からの助けの綱ら。」

泥棒はしっぽをしっかと握っと、

 

「は、ぃよっしゃー!  」

力いっぺこと引っ張ったこて。

 

「うひゃ!      ぎゃーああぁー」      

                       ぁー    ぁー

猿の悲鳴が山にこだました。

「ふ、ふるやのもりがあぁぁ!

し、し、しっぽに取りついたあぁぁぁー!」 

                          ぁー ぁー   

虎狼もイノシシも後退りして、木や草の茂みに隠れたいや。

 

おっかね、おっかねぇけど、穴に引き込まったら、ふるやのもりの餌食になってしもねっか!

猿は涙をこぼしながらも、顔を真っ赤にして、岩にかじりついて、踏ん張っとう!

 

そーして、泥棒が穴から頭を出して、最後の一踏ん張りをして逃げるとき。

 

猿のしっぽは、

ぷつんっと。

 

切れてしもたのらてや。

 

 

「ぃやっほ、ほーい!」

泥棒は、穴から出らって大喜び。

なーげリボンみとなしっぽを、しっぽとも知らず。

新体操女子みとにくるくると振って、弾んで山道を下っていったいや。

 

 

それから、猿の顔は真っ赤っか。

しっぽも今のように、みーじけなったというわけら。

 

 

さてさて、それからというもの、里には、

泥棒も、虎狼も、いろいろ畑を荒らすけものが来ねなって。

んーな、安心して野良仕事。作物もよー育ったこて。

 

そうそう、じいさんとばあさんが、

「おらちはちいせ畑らすけ、てえして難儀ねえろも、ひーろい畑のもんは難儀らねえ。」

畑耕すにも、物運ぶにも、いいようにつこうてくれやし。ゆうて、

でーじな馬を、稼ぎこきのわーけ村のしょ(=よく働く若い村の者)に貸してやったのらって。

 

「でーじに育てられているすけに、おとなして、利口で、いーい馬ら。」

ゆうて、喜ばって。

 

村のしょが集まって、

じいさんとばあさんのあばら屋直して、屋根も新し茅(かや)ふいてくれたってや。

 

そうして、んーなで、仲よう暮したんさ。

 

 

ふるやのもりのおかげで、いいこともあるんらねえ。

 

 おしまい。

 

 

 原作:みんなでよもう!日本の昔話ー3

『ふるやの  もり』

文:小池 タミ子    絵:渡辺 三郎

発行所:株式会社チャイルド本社

 

冷凍枝豆 新潟黒埼茶豆 300g×12袋入り

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『したきり すずめ』

 おじいさんと仲良しになった食いしん坊のすずめ。しーろて、うんめぇまんまの誘惑に勝たんねかったのらて。

 

したきりすずめ (みんなでよもう!日本の昔話)

したきりすずめ (みんなでよもう!日本の昔話)

 

 舌切り 雀

むかーし昔、あるところに、おじいさんとおばあさんがいたこてや。

秋の初め、おじいさんが山へ柴刈りに行ったときのことら。

 

赤トンボの群れん中で、一仕事終ぇーて。

「腹も減ったすけに、まんまでも食うか。」

て、切り株の上に置いた弁当を見っと、包みがほどけていたいや。

おやぁ?と思ってふたをとると、中はすっかり空っぽんなってて、

腹のふくれたすずめが一羽、すーすか、すーすか、昼寝してたこて。

「およこ、およこ。すずめが俺のまんま食てしもたか。しんめぇらすけになあ。ばかうんめこてや。(=おや、おや。すずめが俺の飯を食べてしまったか。新米だからなぁ、すごく美味しいだろう。)」

腹いっぺこと食て、真ん丸くなったすずめの、なんともかぇーらしことぉ(なんとも可愛いらしいこと)。

 

おじいさんはすずめをでーじにふところに抱いてけぇって来て、「ちょん」と名前をつけたこて。

 

 

「おちょん、おちょんやー。」

おじいさんは、朝に、晩に、おちょんにまんまくれて遊ぶのが、毎んちの楽しみになったいや。

 

さて、よう晴れた日のことら。

おじいさんが、今日も柴刈りに行って、きのこがおえてたら(=生えていたら)採ってこよかと思てたら、

おばあさんが、

「弁当は詰めてねえよ。

今日はよう晴れてるすけに、戸の障子張り替えよて。

さぁーめならんうちに直しておけば、はーよに雪が降ったって、あわてねでいいねっか。

早よ帰って来てくれねー。」

て、ゆうすけ。

「あい、あい。」ゆうて、おじいさんは、かごだけしょって山に向こたこて。

 

おばあさんは、毎んち、朝から、ととぼとして、忙しいてば。

「おちょん、おちょんや。

俺ぁ、川にせんだくに行ってくるすけ、

きんの煮た鍋の糊に、ネズミや鳥が寄って来ねか、見張っていれよ。」

おばあさんは、そうゆうて、せんだくもんの入ったかご、担いでいったこて。

 

きんのいっちんち(昨日一日中)、おばあさんが、クツクツ、鍋でまんま煮て作った糊ぁてば。

いーい匂がしてたろも、きんのはあっちぇて鍋に近づかんねかった。(=いい匂いがしていたけれど、昨日は熱々で、鍋に近寄ることができなかった。)

 

しーろて、うんめそげら。

(=白くて、おいしそうだなぁ。)

 

おちょんは、ふたの隙間から首つっこんで、糊をつついてみたこて。

とろっとして、ほんのりあもて(=甘くて)、

ばーかうんめねっか!

こんがにうんめもん、山にはねぇがんね。

もうちと、もうちぃーとばか、と繰返しつついているうちに、んーな、食てしもとう!

 

 

そこへおばあさんが、ふうふう、額に汗かいて戻って来たこて。

「持っていくときゃかーれたって(=軽くたって)、けぇってくるときゃ、重とて、汗だくらんや。

せんだくしてんのらか、せんだく物こしょてんのらか、わからねえーてば!   はーぁ。」

 

どすん、っと、絞ったせんだくもののかご置いて、ちらっと、糊の鍋見っと。

 

「おやぁ?」

 鍋のふたがずれて、糊がのうなっているいや!

 

「おちょん、おちょんやー。どこら?

糊はどうしたて?

ちゃんと見ていねかったのらか?」

「ああ、おばあさん。

隣の猫が来てな、んーな食てしもたこて。」

 

そう言うくちばしに、とろっと、糊がついているねっか。

 

「こりゃ、おちょん!

いっくら腹減ってたって、猫が、まんまだけ、こんがにいっぺこと食うわけねえろう!」

 おばあさんは怒った、怒った。

「おめ、俺だまして、いいと思ってんのらか。自分でたらふく食ておいて、猫のせいにすんのらか!」

左手でおちょんをつかめぇて、 近くにあった針箱に右手ぇ突っ込むと、糸切りバサミがあったすけ、おばあさんは、おちょんの舌をチョキ!と切って。

「おめみとな、嘘つきの、食いしん坊の、怠けこき、家に置いておけっかてや!」

空に放り投げたこてえ。

 

「いたい、いたい、ちい、ちい、ちい…。」

おちょんは、涙をこぼしながら、山の方へ飛んで帰っていったのら。

 

おじいさんが帰って来て、きのこのしょいかごを降ろすと、

「おちょん、おちょんはどこら?」

て、呼んだこて。

「おちょん、おちょんはどこらてば?」

 

「おや、おじいさん、今日は障子張りできのなっとう。おちょんがんーな糊食てしもたすけにの。

おまけに嘘ついて、猫のせいにするすけ、罰に嘘つく舌を切って追い出したこて。」

 

 「はぁー?  しんめえコトコト煮たやぁーらけ糊がばーかうんめかったのらろう。」

 

おじいさんは、昼めし食て、一息つくと、おちょんを探しに出かけて行ったこて 。

 

 舌切りすずめはどこ行ったー。……たー。

おちょんすずめのお宿はどこらー。……らー。

 

おちょんを探すおじいさんの声は、山にこだまするばかり。

 

とんぼの群れと一緒に、川のほとりを歩いていくと、でっこい牛を洗う、牛洗いのじいさまがいらしたいや。

「うちの舌切りすずめがどこへ飛んでいったか、知らねかね?」

「痛い、痛い、ゆうて泣いて飛んでったすずめのことらろか?   桶の水を7杯飲めば教えてやるお。」

 ちょうど、おじいさんはのどが渇いていたところら。

 「ありがてろも、ちといっぺらねえ。どら、ゆっくり飲むとしょうか。

おやあ、おとなして、よう稼ぎそげな、ばかいい牛らねえ。どうすると、こんがにいい牛になるのらてば。」

おじいさんが7杯の水を飲み終わると、牛洗いさまはにこにこして、

「この先の馬洗いさまが知ってるはずら。」

 ゆうたこて。

 

よいしょ、よいしょ、川沿いに上っていくと、馬洗いのあんにゃさが、大きな馬を洗ってたこて。

「ああ、痛い、痛い、ゆうてたすずめな。桶の水を7杯飲めば教えてやるこて。」

「こりゃまた、いっぺらなあ。……ちと、ションべしてから、ゆっくり、飲むてや。」

ほうほう、毛並みもつやつやして賢げな、立派な馬らねっか。おじいさんが感心しながら、ようやく飲み終わると、馬洗いさまは、にかにか笑て、この先の菜洗いさまに聞きなせや、ゆうたこて。

 

川原の石踏んでえんで行くと、菜洗いの姉さ

まがいて。ざぶざぶ、菜の泥落としながら、ゆうたこて。

「あーぁ、痛い、痛い、ゆうてたすずめ?  そうらねえ。菜洗いの桶の水、7杯飲めば教えてやっこて。」

おじいさんは、腹いっぺらすけ、ゆっくり、ゆっくり飲んだんや。

あーおて、よう伸びた菜っぱらのう。どうしたら、こんがにいい菜っぱが育つのらろか? ゆうておじいさんがほめるすけ、飲み終わっと、菜洗いの姉さまは、にーっこりしてぇ、

「この先の竹やぶにおるろう。」ゆうて教えてくれたいや。

 

 

舌切りすずめはどこ行った?

おちょんすずめのお宿はどこら?

 

こんがの山奥、初めて来たのう。

 

おじいさんが竹やぶの中、へぇっていくと、茅葺きのふーるい一軒家があって。

 

♪ちゅん  ちゅん  機織り  とん からり

赤い糸張れ  とん  からり♪

 

すずめたちの楽しげな歌がきこえてきたこて。

 

「ごめんくだせ。

うちの舌切りすずめは、こちらにおらんろか?」

 

にぎやかなすずめの声は、一瞬、静かになったれも。

 

「あ、ああーっ!おじいさん、おじいさん。こんがの山奥に、よう、まあ、来てくんなした!」

おちょんが喜んでおじいさんを出迎えると、竹やぶのお宿はまた、にぎやかになって。

 

♪ちゅん   ちゅん  優しいお客さま

ちゅん  ちゅん  見せよか  晴れ姿 ♪

 

 

「おちょんや、舌切ってしもて、わーれかったれよ。どうら? まだいてか?」

 

「いーのら、あたしもわーれかったすけさあ。

さ、おじいさん、こちらの座敷に上がってくんなせや。ちぃーとばかりの恥ずかしよなもんらけど。」

ままごとみとにちいせ器に、山のごっつぉが次々運ばれてきたろ。

 

娘すずめは、んーないとしげな着物を着て出てきてぇ、並んですずめ踊りが始まったろ。

 

♪しゃしゃんが しゃん、ァ ソレ

しゃしゃんがしゃん、 ァ ドシタ

ちゅん ちゅん すずめのお宿ではーァァ

赤い着物に帯しめてー

娘 すすめが舞い踊るーゥゥ

舞い踊るー

ア、すっかぽっか  すっかぽっか  すっかぽっか  ビンビン♪

 

あっはっはぁ。

ほっほっほぉ。

すずめどもも、おっかしことして暮らしてぁんだねえ。

おちょんは、やっぱし、仲間といた方が、楽して、幸せらねえ。

 

「すっかりごちそになって、楽しませてもろたれよ。」

おじいさんがそろそろ帰ろかとすっと、おちょんは、こっち、こっち。ゆうて手招きして。

大きなつづらと、小さなつづらの前でゆうたこて。

「おじいさん、お土産にどちらかひとつ、差し上げましょう。」

「およこ、およこ。土産まで持たしてくれるてか。山道えんで帰らねばらし、わしは年寄りらすけ、ちいせ方もろていくこて。」

 

日暮れに間におうて、けぇってきたおじいさんが、家でつづらを開けてみると。

 

金、銀、珊瑚、綾錦……。

目にも眩しい、珍しい宝物が、どっさり入っていたこてや。

 

おじいさんも、おばあさんもたんまげとう。

おお、おお、どこからこんがの宝物、すずめが手に入れたのらいや。

 

 

次の日んなると、

「どうして、でっこい方のつづらをもらってこねのら。」

ゆうて、おばあさんが山に出かけていったいや。

 

川のほとりで、牛洗いのじいさまが、

「ここ通るなら、桶の水を7杯飲んでいけ。」

ゆうたれも、

「こんが、牛のあっぱが落ちてるとこで、だがそんがに飲めるてば。三杯にまけれ。」

ゆうて、三杯だけ飲んで、ずんずん行ったこて。

 

馬洗いのあんにゃさは、今さっき来たばっからった。

おばあさんは、耳をピクピクさせて蝿を払ろてる汗びっしょりの馬を見ると、

「こんが蝿だらけのとこで飲めっかてば。」

ゆうて、馬洗いの桶の水を二杯だけ飲んで、ずんずん進んどう。

 

菜洗いの姉さが、おばあさんを見て、にこりとしたれも、おばあさんは、

「俺はへえ、腹くちら。一杯だけにしておけ、ああ、あっちの竹やぶらな。」

ゆうて、ちと口つけただけで、竹やぶの中に入って行ってしもとう。

 

竹やぶの中の古家では、突然、人がやってきたすけ、ばさささ、ばさささ、すずめたちは大慌て。

 

「おやおや、だんらかと思たら、おばあさんらねっか。」

おちょんが出迎えると、おばあさんはゆうたこて。

「おお、おめ、元気にしていたかや。」

「おばあさん、こんがの遠いところまで、よう来てくれましたいね。お土産は気に入ってもらえたろか。」

「ああ、あれな…。

おじいさんに聞いたれも、もうひとつ 、あるんらてねえ。

俺はごっつぉはいらねし、踊りも見んたっていい。土産だけもろて帰るこて。」

「ちと、おっきいですいね。持って帰らいるろか。」

「いいてば、いーてば。おめが元気なの見たすけ、へえ、行くてば。」

 

よいしょ、よいしょ。

思ってたよりはかーるいれも、絹かなんかがへってんのらか。あんがの山奥に置いてあったたて、なんの役にも立たねろう。

 

おばあさんは、つづらの中をはよ見となってしもた。川原の洗いもんらに何がへってるか聞かれたらめんどうらしのう 。

ほんがの宝物だけ抱えて持って帰れればいいのう。

 

はよ見てぇ、はよ見てぇ、そう思てえんでいると、つづらん中でも、

「はよ出てぇ、はよ出てぇ。」

ゆうてるみとら。

おうおう、お宝も、はよ俺に見て欲してか。

はーあ、家着くまでなんか、待ってらんねこて!

 

竹やぶの外れで、そーっつとふたを開けよとすっと、

隙間からまず、蜘蛛がわさわさ出てきて。次にムカデがぞろぞろ出てきて。

「はよ!はよ!」

つづらの中でなにかが暴れてるれも、次に隙間からにゅるにゅる出てきたのは蛇どもらった。

 

「あ、開けちゃならん。これは開けちゃならねものらろ。」

おばあさんは、急に開けるのがおっかのなって、つづらに乗るようにしてふたを押しつけた。

でも、もう、おばあさんの力では、ふたを元に戻すことはできねかったこて。

 

何物かが、むくむくと中からふたを押し開けて。

ああ、これは化け物ら!

ふたが開く間際、

「ひ、ひゃー、ひゃー、ひゃーぁああ!」

おばあさんは声にもならね悲鳴をあげて、命からがら逃げ出したいやあ。

 

どんがの化け物か、知らん。

どんだけ、化け物がへってたかわからん。

 

けど、

おばあさんは、

ひい、ひい、ひいって、泣いて家に帰ったいや。

 

菜洗いの姉さも、馬洗いのあんにゃさも、牛洗いのじいさまも、

あのばあさま、ひとりで何さわいでぁんのらろう?思て、眺めていたけどな。

 

 

舌切りすずめの復讐、おーしーまい!

 

 

 原作:みんなでよもう! 日本の昔話ー2

『したきりすずめ』

 文:小暮 正夫    絵:遠藤てるよ 

発行所:株式会社チャイルド本社

 

 

 

 

 

 

『さる と かに』

 山でも村でもいたずら三昧。みんなを困らせた、いたずらこきの猿の一生。

さるとかに (みんなでよもう!日本の昔話)

さるとかに (みんなでよもう!日本の昔話)

 

猿と蟹

むかーし昔のことらこて。

山にきれーな水が流るる沢があって。夏も涼していいところられも、秋んなっと、周りのもみじがまっ赤に色づぃーて。

「おお、おお、ばーかきれいらねっか。」

て、山道行くもんや、水飲み来る動物たちがゆうてるてば。

そんがの声が聞こぃる、いーぃ場所に住んでいることが、沢蟹のおかみさんの自慢らこて。

「よう来らした、よう来らした。」

岩の陰からゆうてるれも、ちいせ声らすけ、ま、人の耳には、届かねけどな。

 

山の麓の家には、猿が一匹住んでいたこて。

もとは、人が住んでいたのらろも。

その家の姉は、山幾つも越えた遠ーい村に嫁に行って、あんにゃは行商の仕事するゆうて家を出たすけ、じいさとばあさは二人きりで、寂ーしなって。

そんがのとき、仲間からはぐれた子猿が山にいたすけ、捕まえて家で飼ったってや。

 

この猿が、いたずらこきで、いたずらこきでぇ。

だっかが(=誰かが)家訪ねてくっと、石を投げる。

「じさが畑耕しながら、じゃまんなる石、拾た石らねっか。石投げんのらねえろ!」

ゆうたら、芋を投げる。

「ばさが広げて乾かしてる芋らねっか。芋投げんのんねえろ!」

ゆうたら、腐ってびちゃった(=捨てた)ナスやら、リンゴやらを投げるこて。

じいさもばあさも、

首、繋いでるなんか、かーうぇそらなぁ(=首に縄つけて繋いでいるなんてかわいそうだなあ)、と思たれも、

猿がどこ行って何いたずらしてくっかわからねすけ、縄ぁ外さんねかったこて。

 

ある年の、あっちぇ夏。

ジリジリ暑さが何日も何日も続ぃーて、じさも、ばさも死んでしもと。

 

訪ねてきた隣の畑のじいさんが見つけて、お坊さまを呼んでくれらったれも、

「猿は山へ帰んのがいいろう。」

ゆうて、首に結ばった縄を切ったこて。

でも、猿は、山での暮らし方なんか、へぇわからねもん。

蜂の巣つついて、蜂を怒らしてみたり、

栗の木の枝揺らしてイガ落として、下にいる熊、たんまげさしてみたり。

 

「こっち来い、こっち来い、おもしぇもんがあるろ。」

ゆうて、子鹿や瓜坊(=イノシシの子)誘い出して、村人の仕掛けた罠にはめたこともあったんやぁ。そっで、

「あん猿に関わんなんや、鍋にさって、人に食われてしもぉ。」

ゆうて、山ん動物は近寄らねなったこて。

 

朝はーよは(=朝早くは)、よその畑で芋やカボチャかじって。昼間は山でいたずら。

空がくーれなるめぇに家に帰ってきて、

ばあさがしてたみとに、囲炉裏の灰に炭を足してあったこして。

冬は布団かぶって寝てたこて。

 

春んなって。

腹が減ったれも、畑には朝はーよから人がいるすけ、山に行って、沢を通りかかるとな。

「ばかいい眺めら。」

ゆうて、旅のもんが握り飯を食ていた。

俺もひとつ食いてのぉ 、と思て、木の枝の上からしばらく眺めていたろも、

人が去った後にあったのは干し柿の種だけらったいや。

ところが、

「よう来らした、よう来らした。」

と、声が聞こえる沢の方を見たら、沢蟹のおかみさんが、握り飯を持っているねっか。

 

「どうしたのら?」

猿が聞くと、

「道の方から、草の上、ごろんできたのら。」

と、ゆう。

「かに、蟹。その握り飯、柿の種と取り替えっこしねか?」

「えー? いやら、嫌ら。握り飯の方がいいこて。 」

ふーん、と落ち着きはろて、猿がゆうたこて。

「柿の種の方がずーっといいんらけどねえ。握り飯は食てしもえばおしまいらねっか。

そらけど、柿の種は、どうら?  柿らろ!

種まけば、なんねせでっこい木んなって、いっぺこと実がなるこてや。

梅よりもでっけ実が、桃よりもいっぺことなるのらろ。」

沢蟹のおかみさんはちと考ぇて。

「そっか、そらねえ。

よし、よし、取り替えっこしよか。」

「そーら。十も二十も、そのうち百もなるかもしんね、柿の種らろ!」

 

握り飯を手に入れた猿は、木の上に登って、さっさと食てしもと、ぷいっと、どっかに行ってしもとぅ。

 

沢蟹は、でっこい木になってもいいよう、場所選んで、穴掘って、柿の種をでーじに埋めたこて。

「さ、これでいーか。」

そして、水やりながら、うとぅた(=歌った)こて。

 

♪芽ぇ出せ   芽ぇ出せ   むっくらむん

出さんとはさみでほじくっぞぉ♪

 

せっかく埋めてもろたのに、ほじくらってはてーへんらねっか!

柿の種は一生懸命に芽ぇ出したこて。

 

 

 緑色の芽が出たすけ、うれしなって。沢蟹のおかみさんは、また、水をやりながら、うとぅたこて。

 

♪伸びれー  木になれ  ずんずかずん 

 伸びねとはさみで切ってしもろ♪

 

せっかく芽ぇ出したのに、切られてしもたら、てーへんらねっか!

柿の芽は一生懸命に伸びて、枝を広げたこてぇ。

 

おかみさんは、枝を見上げて、うれして、うれして。また、水をやって、うとぅたこて。

 

♪花ぁ咲け    実ぃつけろ   どっさりこん

ならんと、はさみでぶっ切るろう♪

 

せっかく枝葉が伸びたのに、ぶっ切られたら、てーへんらねっか!

柿の木は一生懸命に花を咲かせて、いっぺことの実をつけたいや。

 

「やあ、なった、なった。なったてば。」

沢蟹のおかみさんは、うれして、うれして。実を採ろうと思たれも、あーいや、届かねんや。木登りもできねしのう。

 柿の実、見上げて、木の周りをえんだり(=歩いたり)、幹にしがみついたりしてたら、

腹ぁすかした猿がやって来て。

するするっと木に登っと、よんであーこなった実(=熟して赤くなった実)を、むしゃむしゃ、うんめそげに(=おいしそうに)食い始めたいや。

 

おかみさんは見上げてゆうたこて。

「さる、猿。自分ばっか食てねで、こっちにも投げてくれやれ。」

「はぁー?  めんど。しょうがねえなあ。待ってろよ!」

 猿は、まだあーおてかってぇ実をもぐと(=まだ青くて固い実を採ると)、

地上の蟹めがけて、力いっぺぇー投げたこて!

 

 

どすっ!

 

 まさか命中すっとはのう!

 

「……わ、わーい、かに、蟹、ぺっしゃんこ。

柿につぶれてぺっしゃんこー。」

 

これで沢も静かになるろう!

ゆうて、猿はひゅうっと、山ん中にいってしもとう。

 

 

 しばらくすると、柿と凹んだ土の間から、

沢蟹のおかみさんの腹ん中にいた子蟹たちが、ちょこちょこ、ちょこちょこ這い出してきて。

 

「お母ちゃんが死んだ。」

「お母ちゃんが死んでしもた。」

「どうしよう。」

「どうしよう。」

 「お母ちゃんがー、死んでしもたー。」

おーい、おい。おーい、おい。

んーなで泣いていたこて。

 

「なーした、なーした。

チビども、なに泣いてんのらや!」

泣き声聞いて、どこからか、蜂が飛んで来たんや。

 

「 なに、あのいたずらこきの猿が来て、母ちゃんをつぶしていったてか?

柿もいでくれ、ゆうただけらのに、てか?

うーむ。わーれ(=悪い)猿らのう。俺ら山のもんをどんだけ困らせっかのう。

よーし、俺に任しておけ。

 猿をこらしめてやるろぉ。」

 

蜂はブーンと羽音をたてて、辺りを飛び回っとぉ。

 

「やいやい、猿を憎きと思うものども、集まれー。 ここに集まれんやー。」

 

「なに、何?  猿がまたなんかしたのらか!」

 

たちまち、栗に、臼に、それから、牛のあっぱ(=牛の糞)が駆けつけてきたこて。

 

ブンブンと蜂はゆうたこて。

「やあやあ、さっそく集まってくってありがてことら。

あの憎らーし猿めが、沢蟹の母ちゃんをぺしゃんこにつぶして死なせたんや!

これから猿の家に行って、こらしめてくんのらろも、どうか、力を貸してくんねか。」

「おうおう、がってん、承知之助らてば!」

 

栗はゆうた。

「あの猿が揺らして遊ぶすけ、あの枝もこの枝も、わーけイガが、んーな落ちてしもがー!(=まだ若いイガが、みんな落ちてしまうよ!)」

 

臼もゆうた。

「あの猿めが俺にまたがってションベして溜めて。ばあさまに臭っせ、臭っせと言わって、俺は捨てられたのうてば!」

 

まだ、ほかほかしてる牛のあっぱは、

人に引かれて沢に来た牛のケツから出たばっからった。

見ていた猿が、「うわぁ、こいた、こいた。臭っせ、臭っせ。」ゆうて、鼻つまんで行ったのらって。

「猿めが、俺を笑って行きよった。

俺さまは、畑の土を何よりも肥やすあっぱらろう! 雪が溶けて、種蒔きの準備する始めの一番に、畑のしょが(=畑を耕作する者が)、「あっぱくれ、あっぱわけてくれ。」ゆうてやって来んのら。

俺ほど役に立つもんはそうそういねてがんね、畑荒らして、クソしてく猿めに笑われる筋合いはねーわ!」

 

んーな、猿にされたことを思い出すと、腹が立って、腹が立って。

 

蜂と、栗と、臼と、牛のあっぱ。そして沢蟹の子供たちは、ずんずん、ちょこちょこ、猿の家に向かって行ったこて。

 

 

「ふーむ、まだ、戻っていねみとらな。よし、猿が帰ぇるまで隠れていよて。」

臼は屋根の上によいしょ、よいしょ、と上って。

栗は囲炉裏の灰の中にもぐったこて。

蜂はふたに隙間を見つけて、味噌桶の中に。

牛のあっぱは入り口の横にひっそりと。

そして、子蟹たちは雨水が貯まった水がめの中に隠れて、

猿が帰ぇってくるのを今か、今かと待ち構えていたこて。

 

日が傾くと、猿は何もねかったかのような顔で帰ぇって来た。

「おー、さぁーめ。朝晩、冷える季節んなったなー。

おやおや、囲炉裏の火がまだあったけお!」

猿があったまろうと、火に手を伸ばしたとたん、焼けた栗が、

ぱちーん!

と飛び出して、猿は尻もちをついたいや。

「あちち、あちち。」

猿が火傷した手を水がめの中に突っ込むと、子蟹たちが、

ちょき、ちょき!

 

「いてて、いて、いて。」

じゃ、味噌で冷やそ、と、味噌桶のふたをあけたら、蜂が

ちく!

 

あわてて外に飛び出したてや、牛のあっぱ踏んで、

つるーり! すってん!

 

そこをめがけて、屋根の上から臼が、

どすーん!

 

猿は、ぎゅーっとつぶれて。

 

死んでしもたいや。

 

 

猿ぁたって、母ちゃんとはぐれて、人に捕まってしもて。

猿の仲間がいねて、寂しかったかもしんねろも。

あんまー、いたずらこきで、困ったことばっかしてくれて。

 

だーすけ、猿が死んだと聞いたとき、

山のもんは、

 

めでたし、めでたし。

 

そう思たのらてば。

 

 

さるとかにのはなし、

おっしーまい!

 

 

原作:みんなでよもう!  日本の昔話ー6

『さると  かに』

文:小沢 正     絵:渡辺三郎

発行所:株式会社チャイルド本社

 

 

 

 

 

 

 

『こぶとり じいさん』

おじいさんのほっぺたのこぶは、なんと、夏みかんサイズ。それは重すぎ!大っきすぎるワ!

 

こぶとりじいさん (みんなでよもう!日本の昔話)

こぶとりじいさん (みんなでよもう!日本の昔話)

 

 こぶとり 爺さん

むかーし昔。あるところに、木こりのじいさまが、ばあさまと一緒に住んでいたこて。

 

ちーんけ(=小さい)ばあさまは、鼻のわきに小豆みとなイボがあって。しょーしことがあっと(=恥ずかしいことがあると)、いっつもイボぉいじってんのらけど、ニコニコした、いーいばあさまら。

 

背っ高なじいさまも、いっつもニカニカして 。子供かもたり、猫じょしたりして(=子供をかまったり、猫にイタズラしたりして)、

あはは、あはは、毎日笑て陽気に暮らしていたこて。

 

じいさまの左のほっぺたには、夏みかんほどもでっこいこぶがあって。

その重みで、じいさまの首はいっつも左のほに傾いて、ほして(=そして)、笑うたんび、ぶらーん、ぶらん、と揺れたのら。

 

ある日のことらんや。

いっつものように、じいさまは山へ木を切りに行ったこて。

ああ、なんぎ(=ああ、疲れた)、ゆうて、じいさま仲間は昼めぇに帰えってしもた。

わーけ(=若い)木こりは、他にも仕事があるゆうて、にぎり飯食うと、山を下りていったこて。

ひとりんなったれも、なに、じいさまはこれからが楽しみら。

木の枝落とすに、節つけてナタを振ってみたり、鼻歌うとぃながら、ノコギリひーてみたり、たまにでっけ声だして、こだまが山に響くのもまた、楽しぁんだてばー。

 

「さ、もぉ、しめぇにすっか(=さあ、もう、終わりにしようか)。」

ぱっぱっとクズ払ろて、道具片付けてっと、灰色の雲がもくもくしてきて、ピカッと光っとぉ。

雷さまがゴロゴロ鳴って、大粒の雨が落ちてきたいや。

「おうっ、こーりゃ、てーへんらねっか。」

 ざぁざぁ、降りだした雨ん中、

じいさまは、あわてて、近くのほら穴に逃げ込んだこて。

 

雷さまはヒカヒカ光ってなかなか止まね。

じいさまは穴ん中で縮こまっていたれも、雨が止むのぉ待ってるうちに、ねむーっとなってしもて。

こっくり、こっくり、寝てしもとぉ。

 

どんがぐれー経ったのぁろか?(=どのくらい経ったのだろうか?)

ふと、じいさまが目を覚ますと、雨は止んで、辺りはまっくれなっていたこて。

「や、寝てしもた。夜んなっとぉ。」

あわてて、じいさまが腰を上げようとしたときら。

ほら穴ん外で話し声がしたかと思と、ぼうっと辺りが明るくなったいや。

だが(=誰が)来たのら?と外をのぞいたじいさまは、たんまげたこて。

 

広場んなってるとこに、赤々と火ぃ燃やして、

でっけぇ鼻、あーけぇ顔した(=大きな鼻に赤い顔をした)天狗たちが、輪になって宴会をするとこらったてば。

 

じいさまはおっかのなって(=怖くなって)。

膝ががくがく、肩もぶるぶる震えたこてや。

 

わやわや騒ぎながら、天狗たちの酒盛りが始まったろ。

あはは、あはは、と、今日あった、おもしろ自慢をしていたろ。

やがて酒がまわって楽しなった天狗たちは、

太鼓たてぇたり、笛吹いたりしながら、輪になって踊り始めたいや。

 

♪とんとん    とととん

ぴーひゃら  ひゃー

あーびらうんかの   あっぱっぱー♪

 

♪とんとん   とととと

ぴーひょろ  ひょー

どーびかずべたの  すっとっとー♪

 

およこー。ばーか楽しぃねっか!

隠れて見て聴いているうちに、じいさまの身体がむずむずしてきたろ。

 

♪とんとん  とととん

ぴーひゃら  ひゃー♪

 

踊りとて、踊りとてー。

我慢できのなったろー!

 

怖さを忘って、穴から飛び出すと。

 

♪あ、てんぐ踊りは  よいこらせーぇ

ん、なげえ鼻ぁー振り立ててー

あっちゃー行ってぇ   ぶーらぶら   ァソレッ

こっちゃー行ってぇ   ぶーらぶら♪

 

両方の手の平を空に向け

腰をふりふり踊ったこてえ。

 

天狗たちは、飛び出してきたじいさまに、目ぇ真ん丸くして驚いたらろも、

あんまし(=あんまり) じいさまがいい声でうとうて、上手に踊るすけえ、

 

あーっはっはっは!

ひゃーっはっはっは!

 

鼻がぶらぶらと歌われても、大喜びら。

 

おうおう、じいさま、ばかいーねっか!

じょーずらろう!

 

♪ぶーらぶら   ァソレ、ぶーらぶらー♪

 

あーっはっはっは!

うひゃっはっはっは!

 

 こうして、じいさまは、ほっぺたのこぶ、ぶらぶらさしながら、天狗たちと一緒に夜が明けるまで踊ったこてや。

 

空が白み、鳥の声が聞こえ始めると、じいさまを囲んで天狗たちはゆうた。

「こんがのおもしぇ酒盛りは初めてらったぉ。」

「じいさま、今夜も来いよ。」

「来ねば、八つ裂きらぞ。」

すると、

「待て、待て。」

 ひとりの天狗が、いきなりじいさまのこぶをぎゅっとつかんで。

「こうせば、じいさまは必ず来るろう。

……えいや!

 

 と、ひっぱったら、

 

すっぽーん!

 ……こぶがとれたてや。

 

 

「いいか、じいさま。

このこぶは今夜まで預かっておくろ。

今夜、ここへ来たら返してやるすけに、必ず来んのらろ。」

 

そうゆうと、天狗たちは、鳥のように。

ばさばさばさっと飛び立って、森の奥に姿を消してしもた。

 

デデッポー、デデッポー。

 

 キジバトの声が響く山ん中で、じいさまはひとり、ぽつーんと立っていたこて。

 

 

こんがのことがあるのらなあ。

もくもくとえんで、家にけぇっと。

心配してたばあさまは、じいさまを見て、たんまげたいや。

「どこ行ってたてや。なかなかけーらんで。

おやぁ?  ほっぺたすべすべんなって。どうしたのら!」

 

そこで、じいさま夕べの出来事を話して聞かせたこて。

 

おもしぇ宴会らったてば。

んーなして踊って、

 あはは、あははと笑たこてや。

 

なに、何?

背っ高じいさまの声がでっこいすけに、隣の家のじいさまにも、話がよう聞こえたいや。

隣のじいさまもまた、右のほっぺたにみかんみとなこぶ、ぶら下げていたのらいや。

 

「いいこと、聞いとぉ。

俺も天狗にこぶ取ってもろお。」

隣のじいさまは、さっそく山に行って、ほら穴に隠れていたこて。

 

夜んなって 。

天狗たちがわさわさ集まってきて、酒盛りが始まっとぉ。

 

♪とんとん  とととん

ぴーひゃら  ひゃー♪

 

   

よし、今られよ!

じいさまは、おっかなびっくり、穴から出ていったこて。

 

「来たなー、じいさま。待ってたろう!」

「おやぁ?  おめ、縮んだけぇ?」

「腹も出て。これから酒盛りらてがんね、何そんがに腹ごしらえしてきたてば。」

「さあさあ、うとえ、踊ってくれ。」

天狗たちは大喜びら。

 

♪て、て、……

 

隣のじいさまは、真っ赤ん顔した大男の天狗どもに囲まって見おろさったら、急におっかのなってしもて。

 

 胸が、どきん、どきん。

声もかすれて

 

♪て、天狗踊りは と、とほほほほ…… 

な、なーがい鼻が   じゃ、じゃまんなる……

 

歌の文句もまちごてしもたこて。

 

「なんら!今日のじさはおもしょねぇのう!」

「なに、まごまごしてんのら!」

「歌えんや!  ほれ、踊れんや!」

 

はーぁ、足ががくがくして、動かんね。

 

「へったくそがぁ!」

 

天狗たちはかんかんに怒ってしもて。

 

 「腰ぬけ!」

「とっとと家けえれ!」

 

そうして、きんのの(=昨日の)こぶを 、

じいさまめがけて、

ぶんっ   

と、投げつけたこて!

 

ぺったーん!

 

こぶは、じいさまの左のほっぺたに

貼り付いたいや!

 

ああ、おっかね、おっかねことぉ。

隣のじいさまは、おーいおい、おーいおいとよろけて泣きながら、やっとのことで山を下りていったこて。

 

 

 

こうして、

隣の小太りじいさんのほっぺたには、こぶが、ふたーっつんなってしもたんらてさー。

 

真似したところで、うまくいかねもんだこてなあ。

 

 おーしまい!

 

 

原作:みんなでよもう! 日本の昔話ー9

『こぶとり じいさん』

文:三田村信行     絵:福田庄助

発行所:株式会社チャイルド本社

 

 

 

 

『ぴぴんぴよどり』(鳥呑み爺)

このひよどり、いったい、いつまで生きたのらろか?  じいさんと一緒に長生きしたのらろか?  気になるねぇ……。

 

ぴぴんぴよどり (子どもとよむ日本の昔ばなし)

ぴぴんぴよどり (子どもとよむ日本の昔ばなし)

 

 

むかーし昔。

山、また山の、山奥で。

じいさんが鳥を飲んでしもた話らて。

山ん中のちいーせ家に、じいさんとばあさんが、仲よう暮らしていたって。


薪(たきぎ)は山ほど積んだ。炭はいっぺこと焼いた。柿の実結んで干した。干したでえこん、塩振って漬けた。

乾いた小豆も大豆も麻袋に詰めた。栗もくるみもいっぺことひろてきた。

 

雪や風よけの板、なんめえも家のまわりにめぐらして、冬の支度が済んだころ。


木の葉は、んーな落ちて裸んぼ。


急にさぁーめなって、雪の降った朝のことらったて。

 

さーめたって、顔は洗わんばら。水も汲まんばら。

じいさんが川へ下りていくと、切り株に、ひよどりが一羽とまってとぅ。

鳥ぁたって、さぁめのらろう。目ぇほーそして、ぷるぷる、震えていたこてや。

 

「おうおう、かーうぇそげに。おめの家も雪かむったか。凍みてへぇーらんねか。」

じいさんはそうゆうて、そーっと、両手で、ひよどりを捕まえっと。

はーっと、息をかけて、あっためてやったこて。

「はーあっ、はぁー。……どうら?   あったこなったかー?」

ひよどりは目をクリクリさして、だんだんと元気んなって。

また息をかけよて、じいさんがでっけ口開けたてや、

ひょっ!

 と、口ん中に飛び込んで。

は、腹ん中までへぇってしもたてば!

 

て、て、て、てーへんらねっか!

じいさんがあわてて腹を両手でさすっていっと。

ヘソからしっぽが、ツンッて、出てきたいや!

 

そのしっぽつまんで、ちょいっと引っ張ってみっと。

 

♪ぴぴんぴよどり    ごよのおたから

ピッサーヨー♪

 

腹ん中ん鳥が、ばかいーい声で鳴いたてば。

 

雪の寒さもなんのその。

きもんがはだけたまま、じいさんはいっそいで家にけぇって、ばあさんに聞かせたてや。

 

ヘソのしっぽぉ何度も何度も引っ張ってみたろも、そのたんび、腹ん中ん鳥は、

 

♪ぴぴんぴよどり    ごよのおたから

ピッサーヨー♪

 

て、ばーっかいい声で鳴く。

 

こっりゃ、いいのー。


じいさんは、村のもんにも聞かせとなって。雪の残る道えんで(歩いて)、村に下りていったこて。

雪が降ったがんね、村のもんはあわてて、畑の青菜こいでいたこて。

 

「おうおう、ちと聞いてくんねかー、

おらのヘソは、ひよどりのよぅに、いーい声で鳴くろう!」

 へぇー、山のじいさんがめっずらしねっか。

なーにいいことがあったてば。

 

なにぉ? ヘソが鳴くてかや?

「はぁー? それなら、鳴かしてみれ。」

ゆうて、畑のもんが集まってきたすけ、

 じいさんが腹出して、ヘソのしっぽを引っ張っと。

 

♪ぴぴんぴよどり   ごよのおたから

ピッサーヨー♪

 

ヘソがばかいい声で鳴くすけ、畑のもんは、たんまげたいや(おどろいたってさ)。

 「家ん中ん婆さ、呼んでこぉ。」

「坊や連ってこいや。」

あれにも、これにも、聞かせてやれてば。

 

道行く旅のもんにも聞かしてやれば、

「およこ、およこ。」

て、んーな目ぇでっこしてたんまげて。珍しがって行ったてば。

 

やがて、その評判が、殿さまの耳にもへぇって。

城から、殿さまの家来が馬のって訪ねてきとぉ。

ちと聞かせに来い、ゆうろも、殿さまの住む城までは遠い。

じいさんはため息ついて。

「山道は慣れてんろも、城まではのう。おら、馬はおっかのて乗らんね。なーげ道、えーばんるろか。」

そうゆうてたら、城から、かごのお迎えが来てくれたいや。

 

かごに揺られて、じいさんが城に着くと。

広間には、家臣も、下働きのもんも、いっぺこと人が集めてあったてや。


やがて、殿さまと奥方さまが、奥からあらわれてゆうたこて。

「おお、来たか、爺さ。

よう来た、よう来た。待っていたてば。

おめのヘソは、ばかいい声で鳴くのらてな。

存分に、ここで鳴かしてみれ。」

 

んーな、しーんとして、目ぇつむったり、下向いたりして、待っておるわ。

殿さまがおいでになる前から頭を下げて、

座布団の亀の模様を眺めてたじいさんは、すっと頭を起こすと、

「では、失礼。」

と、きもんのヒモほどいて腹出して。

 

ヘソのしっぽを引っ張っとう。

 

腹ん中ん鳥は、

いっつもよりばーかいい響く声で、

 

♪ぴぴんぴよどりー   ごよのおたからー

ピッサーヨー   ピッサーヨー♪

 

て鳴いたてや。

 

「もう一度、もう一度ら。もう一度聞かしてくんねか。」

奥方さまは目ぇ輝かして、胸のめぇに手ぇ合わして、ばーっか喜んだれよ。

 

「はぁ、何度でも、鳴らさしてもらいますいね。」

 

♪ピッサーヨー   ピッサーヨー♪

 

♪ぴぴんぴよどりー    ごよのおたからー

ピッサーヨー   ピッサーヨー♪

 

ほぉーっ。

はぁーっ。

広間だけじゃね、城の内外で、ひよどりの声聞いたもんは、聞き惚れてため息ついたこて。

 

「なるほど、なるほど。評判どおりら。

おめさまのヘソは、清々しい(すがすがしい)ばーかいい声で鳴くのらなあ。

これぁまた珍しいもん、聞かしてもろたれよ。

身体、でーじにして、いつまれもいい声響かせていれよ。」

 

殿さまは

褒美に珍しい菓子、きれーな反物、いっぺことの金貨を包んでくれたこて。

 


こうして、じいさんは金持ちんなって。

雨漏りすっし、すきま風もへえる、ふーるい家を、次の年には、門に松植えて、お屋敷にしたてや。

新し綿半纏(わたばんてん)に、ふかふかした布団も買うて、冬もさぁめねえようにして、ばあさんと幸せに暮らしたってや。

 

ばーか、いかったねえ。

 

これで、鳥飲んだじいさんのお話、おっーしまい!

 

〔 ごよのおたからって何ら?

御代のお宝(みよのおたから)=この世の宝ということらろか?

山梨県西山村で語られた昔話らって。〕

 

原作:子どもとよむ日本の昔ばなし19

『ぴぴんぴよどり』

再話:小澤俊夫/近藤洋子    絵:長野ヒデ子

発行所:くもん出版

 

 

雪国の四季を生きる鳥 (新潟県野鳥観察ガイド )

雪国の四季を生きる鳥 (新潟県野鳥観察ガイド )

 

 

 

くず米・青米 5kg/鳥の餌、飼料用、肥料などに

くず米・青米 5kg/鳥の餌、飼料用、肥料などに

 

 

『わかがえりの水』

 甲斐の国=山はあるけど山梨県、のお話ら。みんな飲みたいよね~、このお水。私もらて。

 

わかがえりのみず (みんなでよもう!日本の昔話)

わかがえりのみず (みんなでよもう!日本の昔話)

 

 

むかーし昔。山また山が連なる向こうの村に、ばか仲のいい、おじいさんとおばあさんが暮らしていたこて。

あん日のこと。おじいさんは炭を焼きに山奥のさぎょばに(作業場に)行ったこて。


「あっちぇ、あっちぇ(暑い、暑い)。今日はばか喉が渇くねえ。」

仕事を終えたおじいさんが山道を下ってくっと、

  こぽ   こぽ ……   こぽ  こぽ……

涼しげな音がするねっか。

どれどれ、と、岩の陰を見てみっと、ちいせ泉が湧いていたこて。

「やれやれ、ありがてことら。」

さっそく掌にすくって一口飲めば、なんとも言わんね、いい気持ちら。

「はっこて、ばかうんめお!(冷たくて、とてもうまい!)』

ごくごく、ごくごく、と、むちゅんなって(夢中になって)飲んでいっと、ふしぎ不思議。身体中に力が、ぅえーてきて(湧いてきて)、曲がった腰がしゃっきり伸びて。

あっという間に、元気な若者になったいや!

水に映った顔を見たおじいさんは、はよ、おばあさんに見せとなって。山道をひょんひょん飛ぶように走って帰ったこて。

 

「おーい、ばさ、どこら?  今、帰ったてばー。」

「おや、今日はまた、はーいえ(早い)お帰りらねっか。ああ?  じさらか?!」

迎えに出たおばあさんは、たんまげたこてえ。わーけ頃のおじいさんがそこに立っているのらもん、ちゃんと足生やして。

「じさ、どうして?  どうしたのら?!」

「なぁに、山で泉を見つけて飲んだらなあ……。」

 

おじいさんの黒い髪、目尻の他にしわのねぇ顔。おばあさんは信じらんねて、くらくらしそうらったれも、この大事に倒れてる場合じゃねかったこてや。

「どこ?  どこら?  その泉は!」

おばあさんは、おじいさんの腕にかじりついて聞いたこて。

日焼けして張りのある、たくまっしいおじいさんの腕。それに比べて、シミだらけのたるんだ腕、そしてシワだらけの指が、嫌でも目にへってくる。

「はよ、はよ教えれね!  わっしも行って飲んで来るすけに!」

もう、くーれなるすけに明日にしれてば、という、おじいさんの声に、じりじりと眠れぬ夜を過ごして、次の日。

おばあさんは、ささーっと朝飯を済ますと、まだ霧のかかる山へ出掛けたこて。

「待ってれね、じさ。 わーけ(若い)娘になって戻って来るすけに。待っていれね。」

 

息を切らしながら、おじいさんに教わった道をえんでいくと、

  こぽ   こぽ……  こぽ   こぽ…‥

鳥のさえずりに混じって、涼ーしげな泉の湧き出る音が聞こえてきた。

「ああ、ここら、ここら。あったてば。」

おばあさんは嬉ーしなって、目尻を下げて、腕まくり。

「よしよし、いただきますいね。」

ごくごく、水を飲んだこて。ごくごく、夢中になって飲んだこて。

わーけなりて。わーけなりて。シワのねかったあの頃みとに。

曲がった腰がしゃんとしてきたのはわかったれも。もうちっと、もうちっとばか、桃みとなほっぺたらった、あの娘の頃に。

おばあさんは本当に、きれいらった娘ん頃に戻りてかったのら。

 

 

陽は傾き始めたけど、おばあさんは帰ってこね。

「道に迷たのらろか?  そっとも、ケガでもして、えーばんね(歩けない)か。」

おじいさんはしんぺぇ(心配)になって、おばあさんを探しに行ったこて。

 

「おーい。」      

おーい。

「ばぁさやー。」    

 ばぁさやー。

「どこらー。」  

  どこらー。   らー。

 

どこにいんのらてば。呼んでも、呼んでも、けってくんのは、やまびこばっから。

 

そうして、あの泉の近くにやってきたこて。

すっと、聞こえてくんのは、赤ん坊の声ら。

涼し水の音どころか、赤ん坊の声が響いているねっか。

「はて、こんがの山ん中に、どうして赤児がいるてば。旅の母子が迷たのらろか。」

岩の陰をそうっと覗いたおじいさんは、

「あっ!」

と、たんまげたこてえ。

赤ん坊がひとりぼっちで、しかも、見覚えのある着物にくるまって泣いているのらもん。

 

おじいさんは赤ん坊のそばに寄ると、へなへなと力が抜けて、膝をついたまんま動かんねなってしもた。

 

「なにしてんのら、ばさや…。飲み過ぎらこてや……。」

 

もう、日が暮れる。

どうすんのら、どうしたらいいのら。

とにかく、おじいさんは大事に赤ん坊を抱いて、山道を下りたこて。

 

乳呑子のいる家はどこら。そこの家の母ちゃんに乳をわけてもらえねろか。

山羊のいる家はどこら。山羊の乳をわけてもらえねろか。

お粥?重湯?でいいのらろか。古着を裂いてしめを作らんばら。

 

どうすんのら、どうすんのらたって、へえ、どうにもならね。

 

まいんち、まいんち、しめ替えて、お粥食わせて。背中におぶうて、洗濯したら、次は畑しごとら。

若者になったおじいさんは、ばか忙しなっとお。

そして、

「♪ばさ、ばさ、飲み過ぎら!」

「♪欲張りばさが、飲み過ぎら!」

そう、うとうて(歌って)、土にクワを振り入れるたび。赤ん坊は、きゃっきゃ、きゃっきゃ、と喜んでいたのらってさあ。

 

〔元祖イクメン? 〕

 

原作   みんなでよもう!日本の昔話ー4『わかがえりの みず』

文:間所ひさこ    絵:若菜  珪

発行所:株式会社チャイルド本社

 

 

 

新潟 名水の郷 津南の天然水 550ml×24本入

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『へっこきあねさがよめにきて』

 姉さらって、若ーけ女らもん。嫁に来た初めから屁ぇこいてた訳じゃねぇよ。ずうっと我慢してたんらけどね……。

 

へっこきあねさがよめにきて (おはなし名作絵本 17)

へっこきあねさがよめにきて (おはなし名作絵本 17)

 

 

とんとん昔のことらこて。

あるところに、ばばさと兄さが住んでいたこて。そうして、兄さが年頃になったすけに、嫁さんをもろたこて。

嫁さんは山ひとつ越え、川ひとつ渡とて、しゃんしゃん、馬に乗ってきたこてや。

ばーか器量良しで、おとなして、よう働く嫁さんらったすけに、ばばさも

「いい嫁ら。ばかいい姉ら。」

ゆうて、喜んでいたこて。

 

とっころが十日たって、二十日たっていくうちに、嫁さんの顔があーおなってきて。病気みとになったてや。

そっらすけ、ある日、兄さが留守ん時に、ばばさが聞いてみたこて。

「姉、姉、おめ、どっか、あんべぇわーれんじゃねえか。わーれば医者に薬もらえばいいすけに、おらにそうっと話してくんねか。」

姉さは黙ーって、もじらもじらしていたこて。

だって、昔の嫁さんは、どんがなんぎことがあっても、「へい、へい、」ゆうて、お姑さんに仕えんばならんかったもん。

そっでまた、ばばさがゆうたこて。

「今日は兄さもいねこんだし、気兼ねなんかしねで、なーんでもおらに話してくれてば。」

そうしたら、姉さはしょーしげに(恥ずかしそうに)下向いて、ちいせ声でやーっと話したこてぇ。

 

「おら、あの、ほんがのことゆえば、屁がしとて、屁がしとて……。そんらけど、嫁にきたもんが、屁なんかこいたらだめらと思て、我慢してたんら。」

ばばさはこれを聞くと、そっくりけって笑ろたこて。

「姉、姉。屁なんかだっれも出っこてや。我慢なんかしてっと、身体にわーれすけな、いっくらでもこけばいいこて。」

「はあ、おら、ほんがにこいてもいいのらろか。」

 「ああ、いいこてや、いいこてや。なじょもこけばいいこてや。」

ばばさがそうゆうてくれたすけ、姉さは、うれーしなって。うん!と気張って、

ぼんぼん  ぽかーん  

と、こいたこてぇ。

 

その屁のでっけこと、でっけこと。

 

ばばさの身体は、ぶは~と舞い上がって、庭の向こうのでえこん(大根)畑まで飛んでいっとう!

ほんがにたんまげたばばさは、畑に落ちっと、でえこんのあーおい首にしがみついたこて。

「こっれは、おおごとらねっか!  ひとつ引き屁にしてくれやれ、姉ー。」

すっと、姉さのほうも、ばばさを屁でこきとばしてしもて、わーれことしたと思たすけ、すぐに応えたこて。

「ほっしゃー。今、引くれのー!」

今度は思い切り大きく、

すう~ぅっぽんぽん

と、引き屁にしたら、これがまた、でっけこと、でっけこと。

ごったな勢いで引き寄せらったすけ、ばばさは、しがみついてたでえこんを、ズボーンと抜いて。

でえこんと一緒に空飛んで、すとん、と庭先にもどったこてや。

「ああ、やれやれ。」

と、ばばさがでえこんを放したら、姉さはもう、次の屁がこらえらんねて。

 

ぼんぼん  ぼがーん

と、こいたこて。

 

ばばさの身体は、また、あっぱらぱ~んと吹き上げらって、でえこん畑に飛んでいっとう。

「こっらこらぁ、また、おおごとらねっか、姉、姉ー。」

 「ほっしゃ~、今、引くれー。」

すうーぅぽんぽん

姉さが今度も思いっきり引き屁にすっと、ばばさはまた、ずぼーんとでえこん抜いて、空飛んでくる。すとんと庭先に戻っと、姉さが次のをこく。

そうすっうちに、姉さの屁にだんだん弾みがついてきて。

ぽがーん とこいては、すうーうっぽん !

また、ぽがーん  とこいては、すうーうっぽん!

みるみる庭先に、でえこんの山ができていったこて。

 

そこへ、仕事に出てた兄さがけえってきて。

たんまげて、きりきり怒ったいや。そらそうらこてのう。

庭先で嫁が、ばばさを屁でこきとばして、でえこん採りしてんのらもん。

怒鳴った、怒鳴った。

「あぃや、なにしてんのらてば! こんがのおっかねぇ嫁、おら、うちにおいておかんねこてや!  里へけえれ。すーぐけえってくれや!」

 「兄、兄、おら、なじょもけがひとつしてねえてば。こんがに上手に屁えこいたり、引いたりするもん、今まで見たことねえてば。」

ばばさは、いっしょけんめ取りなしてくったれも、兄さは意地んなって、なおさら聞かねかったこてや。

 

そんで、姉さもあきらめて、

「ほんがに、おら、けえされたって仕方がねこて……。そらけど、嫁に来るときらって、連れてきてもろたんらがんね、どうか、里まで送ってくんねかね。」

ゆうて、お願いしたこて。

「ほうせば、おら、送っていくこて。」

兄さは嫁の荷物をしょうて(背負って)、一緒にうちを出たこてや。

 

てくり、てくりと、えんで(歩いて)きて、川の渡し場まで来っと。でーっこい船が米俵をいっぺこと積んで、帆を上げていたこて。

でも、どうしたことら、風がぴたっと止んでしもて。船頭衆がいっくら漕いでも竿さしても、船は動かねかったこて。

その様子を眺めてた姉さは、急にけたけた笑ろてゆうたこて。

「船頭衆がよってたかって、そんがの船も出さんねのらかてや。おららったら、屁えひとつで動かせるてがんね。」

船頭衆は、笑わったすけに、むくれてゆうた。

「何をゆうてんのら、そこのおんなご。そんがのことができんのらったら、米俵幾つでもやるすけ、船出してみれ!」

「ほんが?  ほんがにくれんのらな?   今、出してやっこてや!」

姉さはぶいっと、けつを振り向けて、あのでっこいのをこいてやったこて。

ぼんぼん  ぶおおーっ

 

すっと、大風がぼふぁーぼふぁーと吹きだして。

帆をふくらました船は、ずいーっと、沖へ出ていっとう!

たんまげた船頭衆はんーな、しばらく、ぽけーとしてたれも、やがて、約束のもんをくんねまま、船を漕ぎだそうとしたこてや。

「やれ、待て、待ててばー!  

根性悪らなぁ、米俵くれるゆうたねっか!」

今度は姉さが怒った、怒った。

川岸んとこで、尻向けて仁王立ち。腰に手を当てっと、今度はでっこい引き屁にしたこて。

ずずう  うっぽーん

 

すると、あらあら、船に積んでた米俵が、一俵(いっぴょう)、ひょーんと飛んできとう!

また次、ずずうと引いたらば、二俵目、三俵目が川岸に飛んできたすけに、

「こんがのもんでいいか。」と

やめた。

姉さは、兄さを振り向いてゆうたこて。

「いい帰りの土産ができたこて。おまえさま、一緒にしょうてきてくんねかね。」

 

さて、

川を渡うて、姉さが先にえんでいくと、だんだんと山の坂道になったこて。

「ああ、この峠を越せば、おらの里もじきら。こんがに早よ帰されるなんか、思わんかったれよ。」

姉さらって、普通のおんなごらもん。ちっとばか悲しげんなって。とこり、とこり、と登っていって、やーっと着いた峠で、先に休んだこて。

 

峠には一本、柿の木があって。

熟れて真っ赤んなった実が、いーっぺこと、なってた。

 

そこへ、反物売りが、荷物を積んだ馬を引っ張って登ってきたろ。

背伸びしたり、棒でつついたり、なんとか柿をもごうとしたれも、枝がたーけ(高い)とこにあって、届かんかった。

 

姉さはそれを見てゆうたこて。

「のどが渇いたすけ、おらもひとつ食いてなあ。だんれもいねば、屁こいて落とすんらけどなあ。」

すっと、反物売りがたんまげてゆうたこて。

「はあ?  ふざけたおんなごらなあ、屁こいて柿落とすてか?  落とせっわけねえろう。そんがのことできんのらったら、今、やってみれ!  賭けしてもいいこて!」

「賭けすれば、おらが勝つに決まってるこて。」

「なにゆうてんがあ。柿落とせたら、俺の反物、んーなくれるこて。馬つけてやってもいいこてや。」

「本気らか?  おら、わーれようらなあ。」

「ああ、上等もんの反物ら、馬ごとくれてやっこてや!  そんかわり、いいか、あの柿んーならろ。ひとつも残さず、落とすんらろ!」

反物売りがそうゆうすけに、姉さはまた 。思いっきりきばったこてや。

 

ぽんがぽんがーっ  ぶがぶおぉーっ

と、こいたらば。

 

柿の木がよさん、よさん、と揺れだして。

ぼたくた、ぼたくた、なってる柿が、んーな落ちてしもたこて。

「……。」

反物売りは、ごったたんまげて、声も出ね。へなへな~としゃがみこんでいたこてや。

姉さは、ちっとばかすまなそうにして、

「そしたら、約束らすけにな。おら、そっくりもらっていくこて。」

って、馬ひいて、峠を下ろとしたこて。

すっと、うんしょ、よいしょ、と米俵をしょうてきた兄さが、

「姉、姉、待ってくんねか。」

ゆうて、呼びとめたてや。

「こんがの宝嫁、里になんか帰せっか。おらともう一度、うちに戻ってくんねかや。」

 

姉さは、兄さの声を聞くと、にーんまりとして振り向いたこて。

「おまえさま、こんがのとこまで来て、なんで待ってくれといわっしゃる。おらな、こんがのこともあるかと思て、今、一発きり、残しておいた。」

今度は兄さがぶったまげてしもて。

「姉、姉、おめ、まさか俺までこきとばす気らかや!」

兄さは俵を投げ捨てて、すたこらさっと逃げよとしたこてえ。

逃げよがなにしょが、姉さはかまわず、

 

ぼがーん  ぶっぱっぱあー

と、こきつけてやったこて。

 

そのおしまいの屁が、一番でっけえ屁らったすけに、兄さもたまったもんじゃねえ。

 

空高う、あっぱらぱ~んと飛ばさって。

山ひとつ、川ひとつ向こうまで飛んでいったこて。

 

 

姉さは、馬の背中に、米俵と反物と旅の荷物を載して、今、来た道を、ぽっこ、ぽっこともどってきたこて。

 

うちに着くと。

兄さは庭先の畑に落っこちて、きろーんと目を回しておったこて。でも、どーっこもけがしていねかった。

ばばさは兄さの顔、のぞきこんで、笑うてゆうたこて。

「お前もらか。おら、こうなるものと思うてた。これでいかったこてや。」

 

そっから、兄さは、二度と「里へけえれ。」なんか言わんかったこて。

姉さも前よりいっそう稼ぐ、いい嫁さんになって。

仲良う三人で暮らしたこてや。

 

 

いかったのう。

 

ああ、そうら。

もうひとつ、

おまけの話があるてばの。

 

兄さは家からちいとばか離れたとこに、小屋を作ってくれらったって。

嫁がぼんぼんこきとなったら、いつでもそこで、こいていいよにしてくったってや。

 

それが、今の「部屋」というなめえ(名前)の始まりらったってや。

 

今も、んーな、自分の部屋でこいているのらろかねえ?

 

 

 原作

文:大川悦生  絵:太田大八

発行所:株式会社ポプラ社

おはなし名作絵本17「へっこきあねさがよめにきて」より

 

〔昔から各地で語られていたこのお話。大川さんは、どうしても欲しい場面を創作してつけ足してこの本にしたそうら。私も少々のアレンジを加えてみたこて。

足りないところを加えたり、一部をわかりやすく変えたり、私が読み聞かせをより楽しくできるきっかけになった本ら。吹き出さねで読めるようになるまで数ヶ月かかったけれどね 。〕