新潟・越後の言葉で語る昔ばなし

子供に昔話を読んだ後、少々のアレンジを加えて、故郷の言葉で語ってみたこて。

「桃太郎といわれた男」② 乳母探し

昔は寿命が短いから、昔話の婆さはたぶん40代~50代だと思う。出産未経験で、おっぱいの出ない婆さは、どうやって桃太郎を育てたのらろう?


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 「桃太郎と呼ばれた男」② 乳母探し

 

桃太郎を授かって、婆さは忙しなったこて。

婆さはへえ、歳らもん。

どんがに桃太郎が腹減って泣いたって、乳が出ね。

 

朝は子沢山の栗太んちのでえろこ(台所)行って、かまどで煮炊きの手伝い。

まんまが炊けるまでのえーだ、栗太の母ちゃんの乳を吸わさしてもろう。

 

昼は豆太んちの畑に行って、草取り。

豆太の母ちゃんに日陰で休んでもろて、

豆太がはらくちんなったら、

そのあと、桃太郎も乳を吸わさしてもろう。

 

婆さも、ちと、昼ん寝したあとは、

桃太郎をおぶうて、

「だか(誰か)、この坊に乳くれる姉さはいねろかー。」

ゆうて、時々、すれ違う旅の者にも声掛けながら、山道を行く。

竹屋の母ちゃんがいる作業場までは、

道ともいえね竹やぶの中、えんで(歩いて)行くこて。

 

竹屋の爺さまが、ひーろい竹やぶを手入れしていてさ。

おえてる竹切ってきて、干しといて。

父ちゃんは、昼間、

馬に器用に青竹の竿やかごを結んで乗して、ぽっこ、ぽっこ、売りに行くのさ。

 

三年めえに嫁に来た母ちゃんは、

爺さまと婆さまになろい(習い)ながら、竹かごを編んでる。

竹かごいじって遊ぶ娘のさよは、もう乳は飲まねれも、

母ちゃんは、婆さの川の洗濯仲間ら。

「まだ、乳が出るすけ、桃くんにやる。 なじょも遊びに来いてば。」

ゆうて、乳吸わしてくれ、遊ばしてくれるのら。

ありがてー。ありがてことらねえ。

 

 

桃太郎が一人でとっとこ、えーぶ(歩く)ようになっと。

「おれ(私)の乳飲み来い、」

「おんの(私の)乳吸うてみれ、」ゆうて、

川に洗濯に来るあの姉も、この姉さも、

自分の子に乳やったあと、呼んで遊んでくれるてば。

へえ、子がでっこなったおばも、

着物の胸元ゆるめて、ちと垂れた乳出して呼ぶ。

 

牛や馬連れて、川に水飲ませに来たおじたちは、

「およこ、およこ。乳母がいっぺこといて、ばーかいいねっか、桃太郎!  」

「うらやましてばー。」

ゆうて、にやにやしていたこてや。

 


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秋のはじめの晴れた日のことらった。

「この村に、仏さまから授かった坊やがいるゆうて聞きましたいね。」

肩に子ザルをのした、旅の薬売りがやって来とう。

時々、村長(むらおさ)に頼まれて、

薬だけじゃね、家畜や、金物の農具、苗や種。いろいろ珍しもんも運んでくるんさ。

 

いっつも猿を連れているすけ、んーなが

「サル」「サルさ」「サルさま」

て、呼んでる男のことら。

子供んときから親と一緒に、旅しながら薬の商売して。

ここら辺りの里や村のこと、なーんでも知ってる男らこて。

 

さて?

もみじ山の里に、桃の木があったろか?

 首を傾げてたけど、サルは、すぐに、

「ほっぺたがふくふくしてぇ、

ばーかいとしげな子らねっかぁ。

そうらか、そうらか、もみじ山の川の流れにのってやってきたのらな。」

ゆうて、桃太郎を抱っこして、

爺さと婆さに、

乳のよう出る食いもんを教えてくれたこて。

 

「ありがて、ありがてねえ。」ゆうて、

爺さはさっそく、

たんぽぽやはこべの若葉を摘んで、

桃太郎の乳母たちに持っていったさぁ。

めったに捕れねろも、

信濃川に網を仕掛けて捕めぇては、

ビチビチ跳ねん、生きのいぃ鯉を運んでいっとう。

 

米や餅米が手に入っと。

婆さと二人で、

栗太んちの栗やくるみ、豆太んちの豆入れて、

だんごや餅をこしょた(作った)こて。

夏の間に刈って干しといた笹の葉に、

くるんで持っていったこて。

あっちにもこっちにも、

いっぺこと生えてる ヨモギ摘んで、

ヨモギ団子も作ったこてさ。

 

 

サルさは、次に来たとき、

山羊を連ってきてくったいや。

 

山羊はヨモギがでえ好きらすけ、

村で試しに飼うてみたらなじら?て

村長にゆうたら、

桃太郎の爺さが、世話してみることになったいや。

旅で疲れたか、しょんぼりした山羊らったれも、

爺さが三日三晩、そばについて、

「よう来た、よう来た。こんがのいい山羊がきて、うれーしれや。」

ゆうて、世話していたら、

いっぺ草食うて、いっぺ乳出すよんなったって。

 

山羊の乳搾って、沸かすときぁ、

栗太んちも、豆太んちも、そこらの村の子ぉんーなに声かけて、

「うんめ。」

「うんめなあ。」

て、んーなで飲んだてば。

 

桃太郎だけじゃね、

んーなが仲ようして、

んーなで村の子供を育てたぁんだてや。

 

 

つづく。