新潟・越後の言葉で語る昔ばなし

子供に昔話を読んだ後、少々のアレンジを加えて、故郷の言葉で語ってみたこて。

『わらしべ ちょうじゃ』

元祖ラッキーボーイの超ツイテル道行き話。

はじまり、はじまりー!

 

わらしべちょうじゃ (みんなでよもう!日本の昔話)

わらしべちょうじゃ (みんなでよもう!日本の昔話)

 

 

原作   奈街三郎・文   清水耕蔵・絵   

チャイルド本社  発行                   

   

      わらしべ   ちょうじゃ

 

むかーし昔。あるところに、貧乏らけど、心のやさーし(優しい)若者がいたこてや。

いよいよ、お金が底をついて。

若者は二十一日の間、お寺にこもって、観音さまにお願いをすることにした。

「どうか、どうか。苦労続きのこの俺を、貧しさから救うてくださらねろか……。」

ちょうど二十一日目のことらこて。

若者の夢ん中に、輝く観音さまが現れて、やさーし声でゆうたこて。

「いいか、若者よ。ここを出たらば、一番はじめに手に触れたものを大事に持っていきなされや。」

 

 「あっ!」

若者はお寺の門を出たとたん、石にけつまずいた。

そして、気がつくと、どうしたことら?

一本のわら、わらしべをつかんでいたこて。

 

 いつの間に?

 

若者がわらしべを持ってえんで (歩いて)いくと、アブが一匹寄ってきて、顔のまわりを

ぶんぶん飛ぶ。

「ええい、うるせー虫ら!」

 

若者はアブを手で捕まえっと、小枝の先にわらしべで縛りつけて。 またえんでいったこて。

 

すっと、

「あの虫が欲しー、あの虫が欲しいよう。」

幼児(おさなご)の声が聞こえてきた。

 「欲しいよう、欲しいよう。」

(観音さまにいたでぇた、でえじなわらしべらけど。……あんがに欲しがってんのらから……。)

若者は、アブを枝ごと、その幼児に渡したこて。

すっと、

「わがままゆうて、わーれねぇ。ちぃーとばからけど、お礼らこて。」

ゆうて、子供のかあちゃんが、若者におっきなみかんをみーっつ、くれた。

 「やあ、一本のわらしべが、三つのみかんになったぃやぁ。」

若者はみかんを持って、またえんでいったこて。

 

しばらく行くと、おんなごが、道端にうずくまって休んでいた。

お付きの者がゆうたこて。

「奥方さまはのどが渇いて動かんねのら。どっか、このあたりに、水はねえろかのう。」「水はねえろも……。そうら、このみかんを食えばいいこてや。」

(観音さまにいたでぇた、でーじなみかんらろも、あんがになんぎそうにしてるもん。)

若者は三つのみかんをんーな (みんな、全部)手渡したこて。

 「あーぁ。ありがてことら。助かりましたいね。これはお礼らすけ、受け取ってくれね。」

おんなごは、きれーな絹の反物 (たんもの)を幾つか、若者に差し出したこて。

「やあ、今まで見たこともねえ、ごったいい反物になったぃや!」

若者は反物を抱えて、またえんでいったこて。

 

しばらく行くと、それはそれは立派な馬に乗ったお侍(さむらい)の一行にでおうたこて。

ところが、その馬は、突然苦しみだして、ひんが、ひんが、暴れたかと思たら、ばったり倒れてしもたこて。

 「ええい、この急いでっときに、困ったもんらのう!」

お侍は鞍(くら)や手綱(たづな)を外すと、家来を一人だけ残して、足早に行ってしもた。

(かわぇそな馬らな。ここまで精一杯走って来たのらろう。俺の目のめえで倒れたのは、観音さまのおぼし召しらかもしんねこて。)

若者は絹の反物をひとつ、家来に渡してゆうた。

 「どうか、これでその馬を譲ってくんねかね。」

馬の始末に困った家来は、喜んで反物を持って行ってしもとう。

若者は馬のそばで、一生懸命、観音さまに願ったこて。

「かわぇそなこの馬を、どうか、どうか、助けてくんなせや。死なせねでくんなせや。どうか、どうか。」

すると、馬は若者の声が聞こえたかのよに、耳をピクピク動かして、目ぇをぱちっと開けて。やがてすっくと立ち上がったてば。

 「あぁ、いかったー。助かったなぁ。

よしよし、残りの反物で立派な鞍と手綱を買うてやるすけにな。」お

若者は馬を優しくなぜてゆうたこて。

 

若者の馬を見たもんは、んーな(みんな)こうゆうた。

「おい、見れてば、ごったいい馬らねっか!」

「たーけ銭出して買うたんらろう!」

若者は胸を張ってえんでいったこて。

「ありがてのう。一本のわらしべが、こんがのいい馬になって。」

 

 

馬に鞍をつけ、手綱をひいてえんでいくと、ひーろい田んぼに出て、りっぱなお屋敷が見えてきたいや。

どうやら、引っ越しの最中みとで、屋敷の中から、荷を運び出す者、荷車に載せる者、男衆が忙しそうに働いていたこて。

すっと、

でっこい松の木がある門のとこから、若者を呼ぶ声がした 。

「これこれー、そこの兄さ、ばーかいい馬連れてるねっか。その馬をわしに譲ってくんねか ー!」

 

「こんがの立派な馬が、ちょうど欲しかったところらてば。わしはこれから大急ぎで、遠くの国に行かねばならんのら。わしの屋敷と、畑と、田んぼも、んーなやるすけに、この馬、わしにくんねか?    どうら ?  兄さ。」

 

断る理由があるかてば。若者は喜んで取りかえることにしたこて。

 「やあ、一本のわらしべが、こんがに広い畑や田んぼになったれやぁ。」

 

それからというもの、若者は一生懸命、汗を流して働いとう。

朝はくーれうちから、とっぷり日がくれるまで。あっちぇ日もさぁめ日も、せっせと稼いだこてや。

 

ひーろい畑と田んぼらすけ、何人も人をやとたけど、豆もなすもでえこんも、工夫すればするほどに、おもしぇほど実って。

うんめえ米もいっぺ採れたこて。

 

観音さまに毎んち、礼をゆうことも忘れねで、稼ぎ続けたんや。

 

そうして、

貧乏らった若者は、何年もたたんうちに『長者』と呼ばれる、大金持ちになったってや。

 

いかったねえ。

 

 

 おしまい。