栗が大好きらし、毎年 秋になると読みてなるこの1冊。この和尚さま、こんがの和尚さまに会ってみてなあ。きっと魔法使いら!と思うのら。
むかーし昔。ある山のお寺に、和尚さんと小僧が住んでいたこて。
小僧の朝一番の仕事は、お御堂(おみどう)の掃除ら。
とっとこ、とっとこ、雑巾がけをしてっと、山から吹く風が歌うてる。
♪ ゆっささ ゆっさ そら 揺らせ。
ぽっとこ ぽっとこ 落とせいや。 ♪
小僧は和尚さんにお願いをした。
「山で栗の実が落ちてるみとら。和尚さま、今日、裏の山に行ってもいいろか。」
すっと、和尚さんはゆうたこて。
「裏山ぁ? だめら、だめら。裏山にはおっかね鬼ばばがいるねっか。やめれ、やめれ。」
小僧の次の仕事は庭の掃除ら。秋は何べん掃いても次々葉っぱが落ちてきて、きりがねえ。
そっでも、さっさか、さっさか、掃いてると、山から飛んできたキジバトが歌うてる。
♪ぽっとこ ぽっとこ お小僧さん。
来いや お山の栗ひろい。♪
「和尚さま、庭ぁ掃き終わったら、裏の山に行かしてくんねろか。」
「だめらこてや。鬼ばばに捕めらったら、食われてしもろ 。やめれ、やめておけてば。」
「おら、鬼ばばなんか平気ら。石段を掃き終わったら、行かしてくんねか。おら、栗食いてぇ。栗ひろいに行きてぇ。栗ひろて食いてぇのら!」
小僧が何度も何度も頼むすけに、和尚さんは
「しょうがねなあ。」
ゆうて、奥の部屋にすうっと、行ったこて。
村のもんがあーおい顔して、
「和尚さん、困ったてば……。」
ゆうて来ると、村のもんと一緒にこもる奥の部屋ら。
小僧がそうっとのぞくと、和尚さんは、小僧の読まんね字らか、絵らか、わからねもんを、筆ですらすらっと書いて。
うんにゃら ~ もんにゃら ~。
うんにゃら ~ もんにゃら ~。
これまた、小僧にはわからねお経らか、呪いらか、ごにょごにょ唱えていたこて。
終わっと、小僧の方を振り向いて、
「おめの頼みを何でもきいて、おめを守るよう、お願いしておいたてば。いいか、危ねことが起きたら、この札を使うて逃げてくんのらろ。」
そうゆうて、三枚のお札を小僧に手渡したこて。
小僧は山道をてんてこ、てんてこ、登っていった。行けば行くほど、おっきな栗がいっぺことなってるもん。
枝つかんでゆっさゆっさ揺らしてみたり、落ちてくるいがを、いてて、いてて、とよけてみたり。おもしぇて、おもしぇて、たまらんこてや。いつのまにか、ふっけ (深い)山奥へ入り込んでしもたこて。
気がつくと、もう、日暮れらった。
「や、けぇりの道がわからねんやぁ、さあ、どうすっかぁ。」
すっと、どっから来たのらろか、やさーしげなばあさまがあらわって、にこにこしながらゆうたこて。
「おやおや、かーわぇお小僧さん。なんでこんがの山奥に来たてばね。まっくれ中、えんで(歩いて)帰るなんか、おっかねねっか。わしのうちに泊まっていくか? 泊まっていけばいいこてのう。」
やれやれ助かったと思て、小僧はばあさまのあとについて行ったこて。
「さあさあ、お小僧さん。たんとあるすけに、遠慮しねで食てくれね。」
ばあさまはざるに山ほどある栗を、ゆでたり、焼いたりしてごちそうしてくった。
「うんめ、うんめぇ。なーんてうんめぇ栗らろっか。」
食いとて、食いとて、しょうがねかった栗らもん。小僧は腹いっぺこと食たこてや。
すっと、うつらー、うつら。眠っとなってきたこてぇ。
小僧はいつのまにか、布団の上でぐっすり寝ていたろも、ふと、雨の音で目を覚ましたいや。
耳を澄ますと、雨だれが歌うてる。
♪ たんつく たんつく 小僧さん。
起きて ばんばの顔を見ろ。♪
小僧は、そうっと起き上がっと、隣の部屋をのぞいてみたこて。
囲炉裏の火が照らすばあさまの横顔。ばあさまの口は……。耳まで裂けて、真っ赤な舌がちろちろ動いていたこてや。
「鬼ばばら…。」
小僧はぶるぶるっと震えあがって。震えながらも考えたこて。どうする、どうすってば……。
と、鬼ばばがこっちを向いた。
「お、お、おら、便所に行きとなった。」
小僧は恐る恐るゆうたこて。
「なに、便所らと? しょうがねねぇ。ちと待てんや。」
鬼ばばは、小僧の腰に、ぎゅっ、ぎゅっと縄を結びつけて、はじっこを握ってゆうたこて。
「さ、はよ、行ってこいや。」
どうやって、どうやって逃げるてば。
ああ、そうら。和尚さまからもろたお札があったねっか。
震える手で腰の縄をほどいて、一枚のお札を結びつけて、ゆうたこて。
「いいか、鬼ばばが『小僧、まだらか。』ゆうたら、おらの代わりに『まあら、まら。』ゆうて返事しれくれよ。頼んだれよ。」
そうして、便所の窓から、たったか、たったか、逃げたのら。
小僧はいつまでたっても、便所から出てこんこて。
「小僧、まだらか。」
鬼ばばがゆうと、
『まあら、まら。』
と、お札が応えた。
「まだらか、まだらか、小僧。」
『まあら、まら。』
「なにしてんのらてば、小僧!」
待ってらんね鬼ばばが、ぐわっと縄を引っ張っと、お札のついた縄だけがけえってきた。
「おのれ、だましたな!」
鬼ばばは、かぁーっと怒って、戸をがらぴしゃ!と開けて、小雨の中、小僧を追いかけたこてぇ。
きもん(着物)が乱れてもおかまいなしら。その足のはーぃえこと、はーぃえこと!
「小僧、待てぇ! こん野郎!」
たちまち、追いつきそになったてば。
下り坂を転がるよに走んながら、小僧は二枚目のお札を後ろへ放り投げとぉ。
「でっこい、でっこい、砂山、出れー!」
すっと、鬼ばばの前に、ずさーん!と砂が降ってきて、ばかでっこい砂山になったこて。
「なんだぁ砂、こんがの砂。」
鬼ばばは、砂にすねまでもぐりながらも、ずりずり登りきると、今度は滑り落ちる砂と一緒にざりざり下りて、
「待て、待て、待てぇ!」
と、また、ごったな勢いで追いかけてきた。もうちとでつかめられそになって、小僧は、最後のお札を投げたこてぇ。
「でっこい、でっこい、川よ、出れー!」
すっと、鬼ばばの前に、ざぶーん!と大水があふんでて、ざんぶら、ざんぶら、流れ始めたいやぁ。
「なんだぁ川、こんがの川。」
鬼ばばが川をざぶざぶと渡とてるうちに、小僧は、やっとの思いでお寺に逃げ込んだこて。
「はぁ、はぁ、和尚さま、助けてくれ、はぁ、はぁ、鬼ばばが、鬼ばばが、追っかけてくるてばー!」
転んで泥まみれ。雨と汗でびっしょりの小僧が、よろよろ泣きながら縁の下にもぐっと、すぐに、目ぇ吊り上げた鬼ばばが駆けて来たてば。
「やい和尚! ここに小僧が逃げてきたはずら。おれをだましたとんでもねえ小僧ら。よくもあんがの、こ憎たらし小僧、寺においてたもんら! さぁ出せ 。はよ出せてば!」
けど、火鉢で餅を焼いてた和尚さんは、落ち着きはろて、ゆうたこて。
「なに? 小僧がおめさまんとこまで遊び行ってたかや。そりゃ、わーれかったのう。きんのから姿がめーねと思てたれも、そんがに遠くに行ってたかや。どこまで遊び行ってんのらか、まだ帰って来ねてばね。
おう、そうら、そうら。おめさま、化けんのがばか上手なんらてねえ! わしもこの頃、化ける修業してんのられも、どうら? わしと化け比べをしてみねか?」
すっと、鬼ばばは、化けるのがでー好きらすけに、目尻下げて、うれーしげな顔して、ゆうたこて。
「おう、よし、ちと待ってれ。おれから化けて見せる。」
たかずく たかずく たかずくよう。
たんたん たかずく たかずくよう。
鬼ばばはみるみるうちに、どんどろ、どんどろ、でーっこなって。
天井までつずく大入道になったこてや。
ほほうーと見上げていたれも、和尚さんは動じずにゆうたこて。
「てえしたもんらのう。まぁ、わしらって、おっきくはなれっけど、ちいせなんのはむずかしもんら。
おめさまも、ちいせはならんねのらろう?」
「あ? なにゆうてる! おれに化けらんねもんなんか、あるかてや!」
ひくずく ひくずく ひくずくよう。
ひんひん ひくずく ひくずくよう。
鬼ばばは得意んなって、豆みとにちいせなってみせたこて。
「およこ、およこ。こりゃまた見事な化けっぷりらねっか。わしなんか、恥ずかしようらのう。」
和尚さんはそうゆうて、ちいせ声できゃんきゃん騒ぐ鬼ばばを指先でつまむと。
ぷうーっとふくれた餅にはさんで、
ぱくっと。
食てしもたこて!
とっぴん ぱらりの ぷう の ぷう!
原作
文:小暮正夫 絵:箕田源二郎
発行所:株式会社チャイルド本社
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