おじいさんと仲良しになった食いしん坊のすずめ。しーろて、うんめぇまんまの誘惑に勝たんねかったのらて。
舌切り 雀
むかーし昔、あるところに、おじいさんとおばあさんがいたこてや。
秋の初め、おじいさんが山へ柴刈りに行ったときのことら。
赤トンボの群れん中で、一仕事終ぇーて。
「腹も減ったすけに、まんまでも食うか。」
て、切り株の上に置いた弁当を見っと、包みがほどけていたいや。
おやぁ?と思ってふたをとると、中はすっかり空っぽんなってて、
腹のふくれたすずめが一羽、すーすか、すーすか、昼寝してたこて。
「およこ、およこ。すずめが俺のまんま食てしもたか。しんめぇらすけになあ。ばかうんめこてや。(=おや、おや。すずめが俺の飯を食べてしまったか。新米だからなぁ、すごく美味しいだろう。)」
腹いっぺこと食て、真ん丸くなったすずめの、なんともかぇーらしことぉ(なんとも可愛いらしいこと)。
おじいさんはすずめをでーじにふところに抱いてけぇって来て、「ちょん」と名前をつけたこて。
「おちょん、おちょんやー。」
おじいさんは、朝に、晩に、おちょんにまんまくれて遊ぶのが、毎んちの楽しみになったいや。
さて、よう晴れた日のことら。
おじいさんが、今日も柴刈りに行って、きのこがおえてたら(=生えていたら)採ってこよかと思てたら、
おばあさんが、
「弁当は詰めてねえよ。
今日はよう晴れてるすけに、戸の障子張り替えよて。
さぁーめならんうちに直しておけば、はーよに雪が降ったって、あわてねでいいねっか。
早よ帰って来てくれねー。」
て、ゆうすけ。
「あい、あい。」ゆうて、おじいさんは、かごだけしょって山に向こたこて。
おばあさんは、毎んち、朝から、ととぼとして、忙しいてば。
「おちょん、おちょんや。
俺ぁ、川にせんだくに行ってくるすけ、
きんの煮た鍋の糊に、ネズミや鳥が寄って来ねか、見張っていれよ。」
おばあさんは、そうゆうて、せんだくもんの入ったかご、担いでいったこて。
きんのいっちんち(昨日一日中)、おばあさんが、クツクツ、鍋でまんま煮て作った糊ぁてば。
いーい匂がしてたろも、きんのはあっちぇて鍋に近づかんねかった。(=いい匂いがしていたけれど、昨日は熱々で、鍋に近寄ることができなかった。)
しーろて、うんめそげら。
(=白くて、おいしそうだなぁ。)
おちょんは、ふたの隙間から首つっこんで、糊をつついてみたこて。
とろっとして、ほんのりあもて(=甘くて)、
ばーかうんめねっか!
こんがにうんめもん、山にはねぇがんね。
もうちと、もうちぃーとばか、と繰返しつついているうちに、んーな、食てしもとう!
そこへおばあさんが、ふうふう、額に汗かいて戻って来たこて。
「持っていくときゃかーれたって(=軽くたって)、けぇってくるときゃ、重とて、汗だくらんや。
せんだくしてんのらか、せんだく物こしょてんのらか、わからねえーてば! はーぁ。」
どすん、っと、絞ったせんだくもののかご置いて、ちらっと、糊の鍋見っと。
「おやぁ?」
鍋のふたがずれて、糊がのうなっているいや!
「おちょん、おちょんやー。どこら?
糊はどうしたて?
ちゃんと見ていねかったのらか?」
「ああ、おばあさん。
隣の猫が来てな、んーな食てしもたこて。」
そう言うくちばしに、とろっと、糊がついているねっか。
「こりゃ、おちょん!
いっくら腹減ってたって、猫が、まんまだけ、こんがにいっぺこと食うわけねえろう!」
おばあさんは怒った、怒った。
「おめ、俺だまして、いいと思ってんのらか。自分でたらふく食ておいて、猫のせいにすんのらか!」
左手でおちょんをつかめぇて、 近くにあった針箱に右手ぇ突っ込むと、糸切りバサミがあったすけ、おばあさんは、おちょんの舌をチョキ!と切って。
「おめみとな、嘘つきの、食いしん坊の、怠けこき、家に置いておけっかてや!」
空に放り投げたこてえ。
「いたい、いたい、ちい、ちい、ちい…。」
おちょんは、涙をこぼしながら、山の方へ飛んで帰っていったのら。
おじいさんが帰って来て、きのこのしょいかごを降ろすと、
「おちょん、おちょんはどこら?」
て、呼んだこて。
「おちょん、おちょんはどこらてば?」
「おや、おじいさん、今日は障子張りできのなっとう。おちょんがんーな糊食てしもたすけにの。
おまけに嘘ついて、猫のせいにするすけ、罰に嘘つく舌を切って追い出したこて。」
「はぁー? しんめえコトコト煮たやぁーらけ糊がばーかうんめかったのらろう。」
おじいさんは、昼めし食て、一息つくと、おちょんを探しに出かけて行ったこて 。
舌切りすずめはどこ行ったー。……たー。
おちょんすずめのお宿はどこらー。……らー。
おちょんを探すおじいさんの声は、山にこだまするばかり。
とんぼの群れと一緒に、川のほとりを歩いていくと、でっこい牛を洗う、牛洗いのじいさまがいらしたいや。
「うちの舌切りすずめがどこへ飛んでいったか、知らねかね?」
「痛い、痛い、ゆうて泣いて飛んでったすずめのことらろか? 桶の水を7杯飲めば教えてやるお。」
ちょうど、おじいさんはのどが渇いていたところら。
「ありがてろも、ちといっぺらねえ。どら、ゆっくり飲むとしょうか。
おやあ、おとなして、よう稼ぎそげな、ばかいい牛らねえ。どうすると、こんがにいい牛になるのらてば。」
おじいさんが7杯の水を飲み終わると、牛洗いさまはにこにこして、
「この先の馬洗いさまが知ってるはずら。」
ゆうたこて。
よいしょ、よいしょ、川沿いに上っていくと、馬洗いのあんにゃさが、大きな馬を洗ってたこて。
「ああ、痛い、痛い、ゆうてたすずめな。桶の水を7杯飲めば教えてやるこて。」
「こりゃまた、いっぺらなあ。……ちと、ションべしてから、ゆっくり、飲むてや。」
ほうほう、毛並みもつやつやして賢げな、立派な馬らねっか。おじいさんが感心しながら、ようやく飲み終わると、馬洗いさまは、にかにか笑て、この先の菜洗いさまに聞きなせや、ゆうたこて。
川原の石踏んでえんで行くと、菜洗いの姉さ
まがいて。ざぶざぶ、菜の泥落としながら、ゆうたこて。
「あーぁ、痛い、痛い、ゆうてたすずめ? そうらねえ。菜洗いの桶の水、7杯飲めば教えてやっこて。」
おじいさんは、腹いっぺらすけ、ゆっくり、ゆっくり飲んだんや。
あーおて、よう伸びた菜っぱらのう。どうしたら、こんがにいい菜っぱが育つのらろか? ゆうておじいさんがほめるすけ、飲み終わっと、菜洗いの姉さまは、にーっこりしてぇ、
「この先の竹やぶにおるろう。」ゆうて教えてくれたいや。
舌切りすずめはどこ行った?
おちょんすずめのお宿はどこら?
こんがの山奥、初めて来たのう。
おじいさんが竹やぶの中、へぇっていくと、茅葺きのふーるい一軒家があって。
♪ちゅん ちゅん 機織り とん からり
赤い糸張れ とん からり♪
すずめたちの楽しげな歌がきこえてきたこて。
「ごめんくだせ。
うちの舌切りすずめは、こちらにおらんろか?」
にぎやかなすずめの声は、一瞬、静かになったれも。
「あ、ああーっ!おじいさん、おじいさん。こんがの山奥に、よう、まあ、来てくんなした!」
おちょんが喜んでおじいさんを出迎えると、竹やぶのお宿はまた、にぎやかになって。
♪ちゅん ちゅん 優しいお客さま
ちゅん ちゅん 見せよか 晴れ姿 ♪
「おちょんや、舌切ってしもて、わーれかったれよ。どうら? まだいてか?」
「いーのら、あたしもわーれかったすけさあ。
さ、おじいさん、こちらの座敷に上がってくんなせや。ちぃーとばかりの恥ずかしよなもんらけど。」
ままごとみとにちいせ器に、山のごっつぉが次々運ばれてきたろ。
娘すずめは、んーないとしげな着物を着て出てきてぇ、並んですずめ踊りが始まったろ。
♪しゃしゃんが しゃん、ァ ソレ
しゃしゃんがしゃん、 ァ ドシタ
ちゅん ちゅん すずめのお宿ではーァァ
赤い着物に帯しめてー
娘 すすめが舞い踊るーゥゥ
舞い踊るー
ア、すっかぽっか すっかぽっか すっかぽっか ビンビン♪
あっはっはぁ。
ほっほっほぉ。
すずめどもも、おっかしことして暮らしてぁんだねえ。
おちょんは、やっぱし、仲間といた方が、楽して、幸せらねえ。
「すっかりごちそになって、楽しませてもろたれよ。」
おじいさんがそろそろ帰ろかとすっと、おちょんは、こっち、こっち。ゆうて手招きして。
大きなつづらと、小さなつづらの前でゆうたこて。
「おじいさん、お土産にどちらかひとつ、差し上げましょう。」
「およこ、およこ。土産まで持たしてくれるてか。山道えんで帰らねばらし、わしは年寄りらすけ、ちいせ方もろていくこて。」
日暮れに間におうて、けぇってきたおじいさんが、家でつづらを開けてみると。
金、銀、珊瑚、綾錦……。
目にも眩しい、珍しい宝物が、どっさり入っていたこてや。
おじいさんも、おばあさんもたんまげとう。
おお、おお、どこからこんがの宝物、すずめが手に入れたのらいや。
次の日んなると、
「どうして、でっこい方のつづらをもらってこねのら。」
ゆうて、おばあさんが山に出かけていったいや。
川のほとりで、牛洗いのじいさまが、
「ここ通るなら、桶の水を7杯飲んでいけ。」
ゆうたれも、
「こんが、牛のあっぱが落ちてるとこで、だがそんがに飲めるてば。三杯にまけれ。」
ゆうて、三杯だけ飲んで、ずんずん行ったこて。
馬洗いのあんにゃさは、今さっき来たばっからった。
おばあさんは、耳をピクピクさせて蝿を払ろてる汗びっしょりの馬を見ると、
「こんが蝿だらけのとこで飲めっかてば。」
ゆうて、馬洗いの桶の水を二杯だけ飲んで、ずんずん進んどう。
菜洗いの姉さが、おばあさんを見て、にこりとしたれも、おばあさんは、
「俺はへえ、腹くちら。一杯だけにしておけ、ああ、あっちの竹やぶらな。」
ゆうて、ちと口つけただけで、竹やぶの中に入って行ってしもとう。
竹やぶの中の古家では、突然、人がやってきたすけ、ばさささ、ばさささ、すずめたちは大慌て。
「おやおや、だんらかと思たら、おばあさんらねっか。」
おちょんが出迎えると、おばあさんはゆうたこて。
「おお、おめ、元気にしていたかや。」
「おばあさん、こんがの遠いところまで、よう来てくれましたいね。お土産は気に入ってもらえたろか。」
「ああ、あれな…。
おじいさんに聞いたれも、もうひとつ 、あるんらてねえ。
俺はごっつぉはいらねし、踊りも見んたっていい。土産だけもろて帰るこて。」
「ちと、おっきいですいね。持って帰らいるろか。」
「いいてば、いーてば。おめが元気なの見たすけ、へえ、行くてば。」
よいしょ、よいしょ。
思ってたよりはかーるいれも、絹かなんかがへってんのらか。あんがの山奥に置いてあったたて、なんの役にも立たねろう。
おばあさんは、つづらの中をはよ見となってしもた。川原の洗いもんらに何がへってるか聞かれたらめんどうらしのう 。
ほんがの宝物だけ抱えて持って帰れればいいのう。
はよ見てぇ、はよ見てぇ、そう思てえんでいると、つづらん中でも、
「はよ出てぇ、はよ出てぇ。」
ゆうてるみとら。
おうおう、お宝も、はよ俺に見て欲してか。
はーあ、家着くまでなんか、待ってらんねこて!
竹やぶの外れで、そーっつとふたを開けよとすっと、
隙間からまず、蜘蛛がわさわさ出てきて。次にムカデがぞろぞろ出てきて。
「はよ!はよ!」
つづらの中でなにかが暴れてるれも、次に隙間からにゅるにゅる出てきたのは蛇どもらった。
「あ、開けちゃならん。これは開けちゃならねものらろ。」
おばあさんは、急に開けるのがおっかのなって、つづらに乗るようにしてふたを押しつけた。
でも、もう、おばあさんの力では、ふたを元に戻すことはできねかったこて。
何物かが、むくむくと中からふたを押し開けて。
ああ、これは化け物ら!
ふたが開く間際、
「ひ、ひゃー、ひゃー、ひゃーぁああ!」
おばあさんは声にもならね悲鳴をあげて、命からがら逃げ出したいやあ。
どんがの化け物か、知らん。
どんだけ、化け物がへってたかわからん。
けど、
おばあさんは、
ひい、ひい、ひいって、泣いて家に帰ったいや。
菜洗いの姉さも、馬洗いのあんにゃさも、牛洗いのじいさまも、
あのばあさま、ひとりで何さわいでぁんのらろう?思て、眺めていたけどな。
舌切りすずめの復讐、おーしーまい!
原作:みんなでよもう! 日本の昔話ー2
『したきりすずめ』
文:小暮 正夫 絵:遠藤てるよ
発行所:株式会社チャイルド本社
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