調べたところ、民話を本にまとめたペローの童話では、赤ずきんがオオカミに食べられて話は終わり。生きたままの救出劇にしたのはグリム兄弟らしいろ。
宮廷のサロンの女性たちへ語られて、『赤ずきん』は、お行儀のいいお話になったようら。
「赤い頭巾」も、「乗馬用のコート」だったり、「帽子」だったり。元々、ペロー以前は、何も被っていねかったみとらよ。
語られるうち、ウケを狙ううちに話が変わるのは、民話あるある。いろんな『赤ずきん』話があってよかろう。
子供の時は、病気のおばあちゃんになんでケーキを持っていくのら?と思ってた。お祝い用のイチゴのショートケーキとロールケーキしか知らなかった頃。(笑)
赤ずきん
むかーし昔のことらこて。
これはヨーロッパの国々に伝わるお話ら。
お城のお姫さまも聞いて育った話られ。
むかーしは、山に、森に、ウサギや鹿を追って、猟師は狩りに行ったけど、
森の奥には熊やオオカミもいて、銃を持たねば、森はおっかね(=怖い、危険な)場所らった。
でも、町や村に住む人がどんどん増えて、森の木を切っては、次々と家を建てるようになっと、
いろんな動物は、だんだんと姿を見せねなって、森をおっかね、と思う人は少なくなっていったこて。
町のはずれに、
みんなが「赤ずきん」て呼ぶ、かーぅえげな(=可愛い)女の子がいた。
いい子にしてっと、森に住んでるおばあちゃんが、いっつもいいものを買うてくれる。
誕生日に、おばあちゃんが、
「かーぅえて、ばーか良うにおろ。(=可愛くて、とっても良く似合うよ。)」
ゆうて、ビロードの真っ赤なフード付きのコートを買うてくれた。
でー好きな(=大好きな)ばあちゃんが買うてくれた服。
気に入って、そればっか着て、フードをいっつも被っているすけに、「赤ずきん」ら。
花壇や畑で水やりしたり、りんごを切ってパイを焼いたり、乾いた洗濯物を畳んだり。
赤ずきんは、お母ちゃんのそばでお手伝いすんのが好きなお利口さんらった。
ある日の朝、お母ちゃんと庭で洗濯物を干してたらな、
朝はーよに森に行って、木いちご採って来るじいさまが、通りかかって、ゆうたこて。
「おめさんのばーちゃんち、まだ窓もカーテンも開いてねかったよ。いっつもらったら、掃きそうじしたり、水やりしたりしてるねっか。あんべわーれんじゃねーか。(=具合が悪いのじゃないか。)」
2年前におじいちゃんが死んでしもて、おばあちゃんは、森の家に一人で住んでる。
様子見にいかんばらねえ。
お母ちゃんはゆうたこて。
「おばあちゃんは、ここんとこ元気が出ねぇゆうてた。寝てんのらろか。
きんの(=昨日)焼いたケーキと、ワインを1本持っていってくれや。
ケーキには干したぶどうにアンズ、クルミをいっぺこと入れたっけ、これ食えば元気が出るこて。」
「あーい、わかった。」
「あっちぇならんうちに(=暑くならない
うちに)着くよう、道草しねで行くんらよ。
転んでビン割らねように、走らんで行くんらよ。
おばあちゃんに、おはようございます、のご挨拶も忘れんのんねーよ。」
「あーい。わかった、行って来るこて!」
赤ずきんはお母ちゃんと約束の握手して、焼き菓子とワインを入れたかごを持って、元気よう出かけた。
緑の木々の生い茂る森ん中に、オオカミがいた。
ふんふん、ふんふん。
いい匂いがするろ。
ふんふん、人間の。
ふんふん、子供の匂い。
赤ずきんが小道をえんでいくと、オオカミがいた。舌をペロペロさせていたろ。
でも、あかずきんは、初めて見るオオカミがおっかねもの(=怖いもの)とは知らんかった。
「おやぁ、赤ずきんちゃんらな。ばかいい匂いらねえ。」
「そうらろ? お母ちゃんが焼いたケーキらよ。」
「そんがの美味しいの持って、どこ行くね。」
「ばあちゃんち。森ん中のばあちゃんちに行くのら。」
「へえ?どこにそんがの家があったかなあ?」
「3本のおっきな、おっきな、樫(かし)の木の下にあるんらよ。
ばあちゃんがあんべわーれすけ、お見舞いに行くのら。」
「そんらったら、お花を摘んでいくとえーよ。おばあちゃん、きっと喜ぶよー。」
「ああ、そうら、そうらね。お花摘んでいこかな。」
道草しねぇと、お母ちゃんと約束したのになあ。
1本花を摘むと、向こうにもっといい花がある。摘むと、また向こうにきれいな花が咲いてる。摘み始めたら、キリがねえこて。
オオカミは、おばあちゃんちに、ひょんひょんと走っていったろ。
樫の木の下。ばあさんは、確か、今は独り暮らし。じいさんもごちそうとは思っていねかった。
どうしても、どうしても、食いもんがねえときのために、放っておいたのらけど、
まあ、いいこてや。
俺ぁたって、きんのの朝、寝ぼけたうさぎを食たきりら。
おすましして、赤ずきんのふりをして。
トントン、 トントン。
「おやぁ?どちらさんですいね?」
「赤ずきんらよ ー、ばあちゃん。
焼いたケーキ、持ってきたよう。」
おばあちゃん、耳が遠いすけなあ。
しゃがれた声らけど、赤ずきんらと思たんらろなぁ。
「おーぉ、赤ずきんらか。よう来た、よう来た。起きんのがなんぎっけ、掛け金あげて入れや。」
ガチャリ。
ギーって、扉を開け、
オオカミはまっしぐらにベッドに向かい、ばっ、とカーテンを開けると、
がぶり!
おばあちゃんを食てしもた。
口のまわりをペロリとなめると、
オオカミは、レース飾りのついたナイトキャップ(睡眠時の帽子)を頭にのせて。カーテンを締めて、おばあちゃんのベッドにもぐったこて。
まらか、まだらか、と待っていると。
トントン、トントン。
「だあれ?」
「ばあちゃーん! 赤ずきんらよ!
おはようございまーす!」
「おぉ、よう来た、よう来た。早うお入りー。」
「ばあちゃん、扉が開いてるよう?」
ふーん?
なんだか今日はいつもとちごう(=違う)。
カーテンが閉まってっけかな?
テーブルにかごを置いて、カーテンを、窓を開ける。
「ばあちゃん、きれいな花が咲いてたよ!」
おばあちゃんの寝ているベッドのカーテンも開けたけど、
この前、会ったのはいつらったかな?
今日のおばあちゃん、いつもとちごう。
「ばあちゃんの耳、なんでそんがにおっきぃの?」
「ああ、そりゃ、おめの声、よう聞くためらこて。」
「ふーん。
ねえねえ、ばあちゃんの目ぇ、なんでそんがにでっこいの?」
「そりゃ、おめを、よー見るためら。よー見えるよう、もっとこっちおいでえ。」
「ばあちゃんの手ぇ、でっこいねえ?」
「おめをしっかり抱きしめるためらんや。」
「ばあちゃんの口さーぁ、なんでそんがに、でっこいん?」
「そーりゃさぁ、おめを、食うためらこて!」
ガバッ!と起きあがって、
がぶん!
赤ずきんちゃん、いただきまーす!
床には、摘んできた花が散らばった。
あーぁ。ごーった腹いっぺらー。
オオカミは、口のまわりをペロペロなめて、大満足ら。
そのまま、おばあちゃんのベッドで寝ていると、
猟師が通りかかったろ。
グォーッ、グォーッ、
ンビリビリビリ、
グォーッ、グォーッ。
ンゴロゴロゴロ。
誰が寝てぁんだろか?
カミナリみとな、ごったないびきかいてぇ。
ばあさんでは、ねえだろな。
じいさんもいねはずらろ。
窓からのぞくと、
やーあぁ。オオカミらねっか!
猟師はすぐに銃を構えたけど、
あのでっこい腹!
なに食たのらや? ばあさんけ?
猟師は銃で打つのはやめて、家の中に飛び込んだ。
棚の扉を次々と開け、
引き出しを開け、
針箱を探し、
あった、あった。
ハサミを見つけ出した。
昔、おばあさんが自分の服を縫ってた頃の、大っきなラシャ切りバサミ。
息するたびに上がったり下がったりするオオカミの腹を、
ジョキ、ジョキ。
切ると赤いずきんが見え、
また、ジョキ、ジョキ。
すっと、赤ずきんが飛び出した!
ジョキ、ジョキ。
なんら、おばあさんもへってたねっか。
「はぁー。くーれて、せーめて(=暗くて、狭くて)、窮屈らった。」
「いかった!(=よかった!) 生きてたか、赤ずきん!
こんりゃ、わーれオオカミら!
二度と人食わねよう、こらしめてられ!
腹ん中、代わりに石でも詰めてやっか。」
「石なら、家の横にあるよ。花壇のふちに並べるゆうてたよ。」
あった、あった。幾つもあった。
赤ずきんには、ちと重てえ、一人でたがかんね(=一人で持ち運べない)ような石が。
「ばあさん、気がついたか?
へえ、でーじょうぶらっけな。
このわーれオオカミをこらしめてやろて!
針と糸を貸してくれな。」
石をゴロゴロ、中に入れて、
3人でオオカミを囲んで、腹をチクチク縫ったこて。
やがて、オオカミは、目ぇ覚まして。
猟師がいたっけに、たんまげて、家の外に逃げ出したけど、
じょた、じょた。
腹が重てて走らんね。
ジタバタ、ジタバタ、
しばらくバタバタしてたけど、
やがて力尽き、息絶えたこて。
「ああ、いかった、いかった。オオカミには気ぃつけれよ。今度はひとりで来んのんねえぞ。」
て、ゆうて、猟師は家を出ていった。
オオカミの皮を、森のどこかで剥いで行くのらと。
赤ずきんは、床掃除をして、
まだ元気な花を選んで花瓶に飾った。
おばあちゃんの代わりにお茶を入れて、
いただきまーす!
二人でケーキを食べたこて。
おばあちゃんはワインも飲んで元気になって。
「くーれならんうちに帰るんらよ。道草しねで、急ぎ足で帰るんらよ。
今度は、誰かと、ふたーりで来るんらよ。」
て、赤ずきんを見送ったこて。
おしまい。
・母ちゃん、なんで赤ずきんを一人で行かせるのら?
・ばあちゃん、なんでそんがの危険な森に、一人で住んでいるのらてば。
・嫁・姑、もしかして不仲?
・母ちゃん、もしかして継母?
・オオカミに食われて、赤ずきんに消えてほしい?
・妊娠中で一緒にえんで行けね?
いろいろな疑問が頭の中に渦巻き、「黒・赤ずきん」または「裏・赤ずきん」が書けるような気もするけど、
ここはドロドロ話を書くことが目的ではないので、スルーさせていだだきますワ。
あっ、『ヘンゼルと~』って、継母話あったよね…。