このひよどり、いったい、いつまで生きたのらろか? じいさんと一緒に長生きしたのらろか? 気になるねぇ……。
むかーし昔。
山、また山の、山奥で。
じいさんが鳥を飲んでしもた話らて。
山ん中のちいーせ家に、じいさんとばあさんが、仲よう暮らしていたって。
薪(たきぎ)は山ほど積んだ。炭はいっぺこと焼いた。柿の実結んで干した。干したでえこん、塩振って漬けた。
乾いた小豆も大豆も麻袋に詰めた。栗もくるみもいっぺことひろてきた。
雪や風よけの板、なんめえも家のまわりにめぐらして、冬の支度が済んだころ。
木の葉は、んーな落ちて裸んぼ。
急にさぁーめなって、雪の降った朝のことらったて。
さーめたって、顔は洗わんばら。水も汲まんばら。
じいさんが川へ下りていくと、切り株に、ひよどりが一羽とまってとぅ。
鳥ぁたって、さぁめのらろう。目ぇほーそして、ぷるぷる、震えていたこてや。
「おうおう、かーうぇそげに。おめの家も雪かむったか。凍みてへぇーらんねか。」
じいさんはそうゆうて、そーっと、両手で、ひよどりを捕まえっと。
はーっと、息をかけて、あっためてやったこて。
「はーあっ、はぁー。……どうら? あったこなったかー?」
ひよどりは目をクリクリさして、だんだんと元気んなって。
また息をかけよて、じいさんがでっけ口開けたてや、
ひょっ!
と、口ん中に飛び込んで。
は、腹ん中までへぇってしもたてば!
て、て、て、てーへんらねっか!
じいさんがあわてて腹を両手でさすっていっと。
ヘソからしっぽが、ツンッて、出てきたいや!
そのしっぽつまんで、ちょいっと引っ張ってみっと。
♪ぴぴんぴよどり ごよのおたから
ピッサーヨー♪
腹ん中ん鳥が、ばかいーい声で鳴いたてば。
雪の寒さもなんのその。
きもんがはだけたまま、じいさんはいっそいで家にけぇって、ばあさんに聞かせたてや。
ヘソのしっぽぉ何度も何度も引っ張ってみたろも、そのたんび、腹ん中ん鳥は、
♪ぴぴんぴよどり ごよのおたから
ピッサーヨー♪
て、ばーっかいい声で鳴く。
こっりゃ、いいのー。
じいさんは、村のもんにも聞かせとなって。雪の残る道えんで(歩いて)、村に下りていったこて。
雪が降ったがんね、村のもんはあわてて、畑の青菜こいでいたこて。
「おうおう、ちと聞いてくんねかー、
おらのヘソは、ひよどりのよぅに、いーい声で鳴くろう!」
へぇー、山のじいさんがめっずらしねっか。
なーにいいことがあったてば。
なにぉ? ヘソが鳴くてかや?
「はぁー? それなら、鳴かしてみれ。」
ゆうて、畑のもんが集まってきたすけ、
じいさんが腹出して、ヘソのしっぽを引っ張っと。
♪ぴぴんぴよどり ごよのおたから
ピッサーヨー♪
ヘソがばかいい声で鳴くすけ、畑のもんは、たんまげたいや(おどろいたってさ)。
「家ん中ん婆さ、呼んでこぉ。」
「坊や連ってこいや。」
あれにも、これにも、聞かせてやれてば。
道行く旅のもんにも聞かしてやれば、
「およこ、およこ。」
て、んーな目ぇでっこしてたんまげて。珍しがって行ったてば。
やがて、その評判が、殿さまの耳にもへぇって。
城から、殿さまの家来が馬のって訪ねてきとぉ。
ちと聞かせに来い、ゆうろも、殿さまの住む城までは遠い。
じいさんはため息ついて。
「山道は慣れてんろも、城まではのう。おら、馬はおっかのて乗らんね。なーげ道、えーばんるろか。」
そうゆうてたら、城から、かごのお迎えが来てくれたいや。
かごに揺られて、じいさんが城に着くと。
広間には、家臣も、下働きのもんも、いっぺこと人が集めてあったてや。
やがて、殿さまと奥方さまが、奥からあらわれてゆうたこて。
「おお、来たか、爺さ。
よう来た、よう来た。待っていたてば。
おめのヘソは、ばかいい声で鳴くのらてな。
存分に、ここで鳴かしてみれ。」
んーな、しーんとして、目ぇつむったり、下向いたりして、待っておるわ。
殿さまがおいでになる前から頭を下げて、
座布団の亀の模様を眺めてたじいさんは、すっと頭を起こすと、
「では、失礼。」
と、きもんのヒモほどいて腹出して。
ヘソのしっぽを引っ張っとう。
腹ん中ん鳥は、
いっつもよりばーかいい響く声で、
♪ぴぴんぴよどりー ごよのおたからー
ピッサーヨー ピッサーヨー♪
て鳴いたてや。
「もう一度、もう一度ら。もう一度聞かしてくんねか。」
奥方さまは目ぇ輝かして、胸のめぇに手ぇ合わして、ばーっか喜んだれよ。
「はぁ、何度でも、鳴らさしてもらいますいね。」
♪ピッサーヨー ピッサーヨー♪
♪ぴぴんぴよどりー ごよのおたからー
ピッサーヨー ピッサーヨー♪
ほぉーっ。
はぁーっ。
広間だけじゃね、城の内外で、ひよどりの声聞いたもんは、聞き惚れてため息ついたこて。
「なるほど、なるほど。評判どおりら。
おめさまのヘソは、清々しい(すがすがしい)ばーかいい声で鳴くのらなあ。
これぁまた珍しいもん、聞かしてもろたれよ。
身体、でーじにして、いつまれもいい声響かせていれよ。」
殿さまは
褒美に珍しい菓子、きれーな反物、いっぺことの金貨を包んでくれたこて。
こうして、じいさんは金持ちんなって。
雨漏りすっし、すきま風もへえる、ふーるい家を、次の年には、門に松植えて、お屋敷にしたてや。
新し綿半纏(わたばんてん)に、ふかふかした布団も買うて、冬もさぁめねえようにして、ばあさんと幸せに暮らしたってや。
ばーか、いかったねえ。
これで、鳥飲んだじいさんのお話、おっーしまい!
〔 ごよのおたからって何ら?
御代のお宝(みよのおたから)=この世の宝ということらろか?
山梨県西山村で語られた昔話らって。〕
原作:子どもとよむ日本の昔ばなし19
『ぴぴんぴよどり』
再話:小澤俊夫/近藤洋子 絵:長野ヒデ子
発行所:くもん出版