おじいさんのほっぺたのこぶは、なんと、夏みかんサイズ。それは重すぎ!大っきすぎるワ!
こぶとり 爺さん
むかーし昔。あるところに、木こりのじいさまが、ばあさまと一緒に住んでいたこて。
ちーんけ(=小さい)ばあさまは、鼻のわきに小豆みとなイボがあって。しょーしことがあっと(=恥ずかしいことがあると)、いっつもイボぉいじってんのらけど、ニコニコした、いーいばあさまら。
背っ高なじいさまも、いっつもニカニカして 。子供かもたり、猫じょしたりして(=子供をかまったり、猫にイタズラしたりして)、
あはは、あはは、毎日笑て陽気に暮らしていたこて。
じいさまの左のほっぺたには、夏みかんほどもでっこいこぶがあって。
その重みで、じいさまの首はいっつも左のほに傾いて、ほして(=そして)、笑うたんび、ぶらーん、ぶらん、と揺れたのら。
ある日のことらんや。
いっつものように、じいさまは山へ木を切りに行ったこて。
ああ、なんぎ(=ああ、疲れた)、ゆうて、じいさま仲間は昼めぇに帰えってしもた。
わーけ(=若い)木こりは、他にも仕事があるゆうて、にぎり飯食うと、山を下りていったこて。
ひとりんなったれも、なに、じいさまはこれからが楽しみら。
木の枝落とすに、節つけてナタを振ってみたり、鼻歌うとぃながら、ノコギリひーてみたり、たまにでっけ声だして、こだまが山に響くのもまた、楽しぁんだてばー。
「さ、もぉ、しめぇにすっか(=さあ、もう、終わりにしようか)。」
ぱっぱっとクズ払ろて、道具片付けてっと、灰色の雲がもくもくしてきて、ピカッと光っとぉ。
雷さまがゴロゴロ鳴って、大粒の雨が落ちてきたいや。
「おうっ、こーりゃ、てーへんらねっか。」
ざぁざぁ、降りだした雨ん中、
じいさまは、あわてて、近くのほら穴に逃げ込んだこて。
雷さまはヒカヒカ光ってなかなか止まね。
じいさまは穴ん中で縮こまっていたれも、雨が止むのぉ待ってるうちに、ねむーっとなってしもて。
こっくり、こっくり、寝てしもとぉ。
どんがぐれー経ったのぁろか?(=どのくらい経ったのだろうか?)
ふと、じいさまが目を覚ますと、雨は止んで、辺りはまっくれなっていたこて。
「や、寝てしもた。夜んなっとぉ。」
あわてて、じいさまが腰を上げようとしたときら。
ほら穴ん外で話し声がしたかと思と、ぼうっと辺りが明るくなったいや。
だが(=誰が)来たのら?と外をのぞいたじいさまは、たんまげたこて。
広場んなってるとこに、赤々と火ぃ燃やして、
でっけぇ鼻、あーけぇ顔した(=大きな鼻に赤い顔をした)天狗たちが、輪になって宴会をするとこらったてば。
じいさまはおっかのなって(=怖くなって)。
膝ががくがく、肩もぶるぶる震えたこてや。
わやわや騒ぎながら、天狗たちの酒盛りが始まったろ。
あはは、あはは、と、今日あった、おもしろ自慢をしていたろ。
やがて酒がまわって楽しなった天狗たちは、
太鼓たてぇたり、笛吹いたりしながら、輪になって踊り始めたいや。
♪とんとん とととん
ぴーひゃら ひゃー
あーびらうんかの あっぱっぱー♪
♪とんとん とととと
ぴーひょろ ひょー
どーびかずべたの すっとっとー♪
およこー。ばーか楽しぃねっか!
隠れて見て聴いているうちに、じいさまの身体がむずむずしてきたろ。
♪とんとん とととん
ぴーひゃら ひゃー♪
踊りとて、踊りとてー。
我慢できのなったろー!
怖さを忘って、穴から飛び出すと。
♪あ、てんぐ踊りは よいこらせーぇ
ん、なげえ鼻ぁー振り立ててー
あっちゃー行ってぇ ぶーらぶら ァソレッ
こっちゃー行ってぇ ぶーらぶら♪
両方の手の平を空に向け
腰をふりふり踊ったこてえ。
天狗たちは、飛び出してきたじいさまに、目ぇ真ん丸くして驚いたらろも、
あんまし(=あんまり) じいさまがいい声でうとうて、上手に踊るすけえ、
あーっはっはっは!
ひゃーっはっはっは!
鼻がぶらぶらと歌われても、大喜びら。
おうおう、じいさま、ばかいーねっか!
じょーずらろう!
♪ぶーらぶら ァソレ、ぶーらぶらー♪
あーっはっはっは!
うひゃっはっはっは!
こうして、じいさまは、ほっぺたのこぶ、ぶらぶらさしながら、天狗たちと一緒に夜が明けるまで踊ったこてや。
空が白み、鳥の声が聞こえ始めると、じいさまを囲んで天狗たちはゆうた。
「こんがのおもしぇ酒盛りは初めてらったぉ。」
「じいさま、今夜も来いよ。」
「来ねば、八つ裂きらぞ。」
すると、
「待て、待て。」
ひとりの天狗が、いきなりじいさまのこぶをぎゅっとつかんで。
「こうせば、じいさまは必ず来るろう。
……えいや!」
と、ひっぱったら、
すっぽーん!
……こぶがとれたてや。
「いいか、じいさま。
このこぶは今夜まで預かっておくろ。
今夜、ここへ来たら返してやるすけに、必ず来んのらろ。」
そうゆうと、天狗たちは、鳥のように。
ばさばさばさっと飛び立って、森の奥に姿を消してしもた。
デデッポー、デデッポー。
キジバトの声が響く山ん中で、じいさまはひとり、ぽつーんと立っていたこて。
こんがのことがあるのらなあ。
もくもくとえんで、家にけぇっと。
心配してたばあさまは、じいさまを見て、たんまげたいや。
「どこ行ってたてや。なかなかけーらんで。
おやぁ? ほっぺたすべすべんなって。どうしたのら!」
そこで、じいさま夕べの出来事を話して聞かせたこて。
おもしぇ宴会らったてば。
んーなして踊って、
あはは、あははと笑たこてや。
なに、何?
背っ高じいさまの声がでっこいすけに、隣の家のじいさまにも、話がよう聞こえたいや。
隣のじいさまもまた、右のほっぺたにみかんみとなこぶ、ぶら下げていたのらいや。
「いいこと、聞いとぉ。
俺も天狗にこぶ取ってもろお。」
隣のじいさまは、さっそく山に行って、ほら穴に隠れていたこて。
夜んなって 。
天狗たちがわさわさ集まってきて、酒盛りが始まっとぉ。
♪とんとん とととん
ぴーひゃら ひゃー♪
よし、今られよ!
じいさまは、おっかなびっくり、穴から出ていったこて。
「来たなー、じいさま。待ってたろう!」
「おやぁ? おめ、縮んだけぇ?」
「腹も出て。これから酒盛りらてがんね、何そんがに腹ごしらえしてきたてば。」
「さあさあ、うとえ、踊ってくれ。」
天狗たちは大喜びら。
♪て、て、……
隣のじいさまは、真っ赤ん顔した大男の天狗どもに囲まって見おろさったら、急におっかのなってしもて。
胸が、どきん、どきん。
声もかすれて
♪て、天狗踊りは と、とほほほほ……
な、なーがい鼻が じゃ、じゃまんなる……
歌の文句もまちごてしもたこて。
「なんら!今日のじさはおもしょねぇのう!」
「なに、まごまごしてんのら!」
「歌えんや! ほれ、踊れんや!」
はーぁ、足ががくがくして、動かんね。
「へったくそがぁ!」
天狗たちはかんかんに怒ってしもて。
「腰ぬけ!」
「とっとと家けえれ!」
そうして、きんのの(=昨日の)こぶを 、
じいさまめがけて、
ぶんっ
と、投げつけたこて!
ぺったーん!
こぶは、じいさまの左のほっぺたに
貼り付いたいや!
ああ、おっかね、おっかねことぉ。
隣のじいさまは、おーいおい、おーいおいとよろけて泣きながら、やっとのことで山を下りていったこて。
こうして、
隣の小太りじいさんのほっぺたには、こぶが、ふたーっつんなってしもたんらてさー。
真似したところで、うまくいかねもんだこてなあ。
おーしまい!
原作:みんなでよもう! 日本の昔話ー9
『こぶとり じいさん』
文:三田村信行 絵:福田庄助
発行所:株式会社チャイルド本社
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