新潟・越後の言葉で語る昔ばなし

子供に昔話を読んだ後、少々のアレンジを加えて、故郷の言葉で語ってみたこて。

『さんまいのおふだ』

栗が大好きらし、毎年 秋になると読みてなるこの1冊。この和尚さま、こんがの和尚さまに会ってみてなあ。きっと魔法使いら!と思うのら。

 

さんまいのおふだ (みんなでよもう!日本の昔話)

さんまいのおふだ (みんなでよもう!日本の昔話)

 

 

むかーし昔。ある山のお寺に、和尚さんと小僧が住んでいたこて。

小僧の朝一番の仕事は、お御堂(おみどう)の掃除ら。


f:id:wwmaricat:20171021023809j:image

とっとこ、とっとこ、雑巾がけをしてっと、山から吹く風が歌うてる。

   ♪ ゆっささ  ゆっさ  そら   揺らせ。

      ぽっとこ  ぽっとこ  落とせいや。  ♪

 

小僧は和尚さんにお願いをした。

 「山で栗の実が落ちてるみとら。和尚さま、今日、裏の山に行ってもいいろか。」

すっと、和尚さんはゆうたこて。

 「裏山ぁ?  だめら、だめら。裏山にはおっかね鬼ばばがいるねっか。やめれ、やめれ。」

 

小僧の次の仕事は庭の掃除ら。秋は何べん掃いても次々葉っぱが落ちてきて、きりがねえ。

そっでも、さっさか、さっさか、掃いてると、山から飛んできたキジバトが歌うてる。

      ♪ぽっとこ   ぽっとこ   お小僧さん。

          来いや   お山の栗ひろい。♪

 

「和尚さま、庭ぁ掃き終わったら、裏の山に行かしてくんねろか。」

「だめらこてや。鬼ばばに捕めらったら、食われてしもろ 。やめれ、やめておけてば。」

「おら、鬼ばばなんか平気ら。石段を掃き終わったら、行かしてくんねか。おら、栗食いてぇ。栗ひろいに行きてぇ。栗ひろて食いてぇのら!」

小僧が何度も何度も頼むすけに、和尚さんは

「しょうがねなあ。」

ゆうて、奥の部屋にすうっと、行ったこて。

村のもんがあーおい顔して、

「和尚さん、困ったてば……。」

ゆうて来ると、村のもんと一緒にこもる奥の部屋ら。

小僧がそうっとのぞくと、和尚さんは、小僧の読まんね字らか、絵らか、わからねもんを、筆ですらすらっと書いて。

   うんにゃら ~  もんにゃら ~。

   うんにゃら ~  もんにゃら ~。

これまた、小僧にはわからねお経らか、呪いらか、ごにょごにょ唱えていたこて。

終わっと、小僧の方を振り向いて、

「おめの頼みを何でもきいて、おめを守るよう、お願いしておいたてば。いいか、危ねことが起きたら、この札を使うて逃げてくんのらろ。」

そうゆうて、三枚のお札を小僧に手渡したこて。

 

小僧は山道をてんてこ、てんてこ、登っていった。行けば行くほど、おっきな栗がいっぺことなってるもん。

枝つかんでゆっさゆっさ揺らしてみたり、落ちてくるいがを、いてて、いてて、とよけてみたり。おもしぇて、おもしぇて、たまらんこてや。いつのまにか、ふっけ (深い)山奥へ入り込んでしもたこて。

気がつくと、もう、日暮れらった。

 「や、けぇりの道がわからねんやぁ、さあ、どうすっかぁ。」

すっと、どっから来たのらろか、やさーしげなばあさまがあらわって、にこにこしながらゆうたこて。

「おやおや、かーわぇお小僧さん。なんでこんがの山奥に来たてばね。まっくれ中、えんで(歩いて)帰るなんか、おっかねねっか。わしのうちに泊まっていくか?  泊まっていけばいいこてのう。」

やれやれ助かったと思て、小僧はばあさまのあとについて行ったこて。

 

 「さあさあ、お小僧さん。たんとあるすけに、遠慮しねで食てくれね。」

ばあさまはざるに山ほどある栗を、ゆでたり、焼いたりしてごちそうしてくった。

「うんめ、うんめぇ。なーんてうんめぇ栗らろっか。」

食いとて、食いとて、しょうがねかった栗らもん。小僧は腹いっぺこと食たこてや。

すっと、うつらー、うつら。眠っとなってきたこてぇ。

 

小僧はいつのまにか、布団の上でぐっすり寝ていたろも、ふと、雨の音で目を覚ましたいや。

耳を澄ますと、雨だれが歌うてる。

   ♪ たんつく  たんつく  小僧さん。

        起きて  ばんばの顔を見ろ。♪

 

小僧は、そうっと起き上がっと、隣の部屋をのぞいてみたこて。

囲炉裏の火が照らすばあさまの横顔。ばあさまの口は……。耳まで裂けて、真っ赤な舌がちろちろ動いていたこてや。

「鬼ばばら…。」

小僧はぶるぶるっと震えあがって。震えながらも考えたこて。どうする、どうすってば……。

 

と、鬼ばばがこっちを向いた。

「お、お、おら、便所に行きとなった。」

小僧は恐る恐るゆうたこて。

 「なに、便所らと?   しょうがねねぇ。ちと待てんや。」

鬼ばばは、小僧の腰に、ぎゅっ、ぎゅっと縄を結びつけて、はじっこを握ってゆうたこて。

「さ、はよ、行ってこいや。」

 

どうやって、どうやって逃げるてば。

ああ、そうら。和尚さまからもろたお札があったねっか。

震える手で腰の縄をほどいて、一枚のお札を結びつけて、ゆうたこて。

「いいか、鬼ばばが『小僧、まだらか。』ゆうたら、おらの代わりに『まあら、まら。』ゆうて返事しれくれよ。頼んだれよ。」

そうして、便所の窓から、たったか、たったか、逃げたのら。

 

小僧はいつまでたっても、便所から出てこんこて。

「小僧、まだらか。」

鬼ばばがゆうと、

 『まあら、まら。』

と、お札が応えた。

「まだらか、まだらか、小僧。」

『まあら、まら。』

「なにしてんのらてば、小僧!」

待ってらんね鬼ばばが、ぐわっと縄を引っ張っと、お札のついた縄だけがけえってきた。

「おのれ、だましたな!」

鬼ばばは、かぁーっと怒って、戸をがらぴしゃ!と開けて、小雨の中、小僧を追いかけたこてぇ。

きもん(着物)が乱れてもおかまいなしら。その足のはーぃえこと、はーぃえこと!

「小僧、待てぇ! こん野郎!」

たちまち、追いつきそになったてば。

下り坂を転がるよに走んながら、小僧は二枚目のお札を後ろへ放り投げとぉ。

「でっこい、でっこい、砂山、出れー!」

すっと、鬼ばばの前に、ずさーん!と砂が降ってきて、ばかでっこい砂山になったこて。

「なんだぁ砂、こんがの砂。」

鬼ばばは、砂にすねまでもぐりながらも、ずりずり登りきると、今度は滑り落ちる砂と一緒にざりざり下りて、

 「待て、待て、待てぇ!」

と、また、ごったな勢いで追いかけてきた。もうちとでつかめられそになって、小僧は、最後のお札を投げたこてぇ。

「でっこい、でっこい、川よ、出れー!」

すっと、鬼ばばの前に、ざぶーん!と大水があふんでて、ざんぶら、ざんぶら、流れ始めたいやぁ。

「なんだぁ川、こんがの川。」

鬼ばばが川をざぶざぶと渡とてるうちに、小僧は、やっとの思いでお寺に逃げ込んだこて。

 

「はぁ、はぁ、和尚さま、助けてくれ、はぁ、はぁ、鬼ばばが、鬼ばばが、追っかけてくるてばー!」

転んで泥まみれ。雨と汗でびっしょりの小僧が、よろよろ泣きながら縁の下にもぐっと、すぐに、目ぇ吊り上げた鬼ばばが駆けて来たてば。

「やい和尚!  ここに小僧が逃げてきたはずら。おれをだましたとんでもねえ小僧ら。よくもあんがの、こ憎たらし小僧、寺においてたもんら! さぁ出せ 。はよ出せてば!」

 

けど、火鉢で餅を焼いてた和尚さんは、落ち着きはろて、ゆうたこて。

「なに?  小僧がおめさまんとこまで遊び行ってたかや。そりゃ、わーれかったのう。きんのから姿がめーねと思てたれも、そんがに遠くに行ってたかや。どこまで遊び行ってんのらか、まだ帰って来ねてばね。

おう、そうら、そうら。おめさま、化けんのがばか上手なんらてねえ!   わしもこの頃、化ける修業してんのられも、どうら?  わしと化け比べをしてみねか?」

すっと、鬼ばばは、化けるのがでー好きらすけに、目尻下げて、うれーしげな顔して、ゆうたこて。

「おう、よし、ちと待ってれ。おれから化けて見せる。」

   たかずく  たかずく  たかずくよう。

   たんたん   たかずく  たかずくよう。

 

鬼ばばはみるみるうちに、どんどろ、どんどろ、でーっこなって。

天井までつずく大入道になったこてや。

 

 ほほうーと見上げていたれも、和尚さんは動じずにゆうたこて。

「てえしたもんらのう。まぁ、わしらって、おっきくはなれっけど、ちいせなんのはむずかしもんら。

おめさまも、ちいせはならんねのらろう?」

「あ?  なにゆうてる!  おれに化けらんねもんなんか、あるかてや!」

     ひくずく  ひくずく  ひくずくよう。

    ひんひん  ひくずく  ひくずくよう。

 

鬼ばばは得意んなって、豆みとにちいせなってみせたこて。

 

「およこ、およこ。こりゃまた見事な化けっぷりらねっか。わしなんか、恥ずかしようらのう。」

和尚さんはそうゆうて、ちいせ声できゃんきゃん騒ぐ鬼ばばを指先でつまむと。

 

ぷうーっとふくれた餅にはさんで、

 

ぱくっと。

 

食てしもたこて!

 

     とっぴん   ぱらりの  ぷう  の    ぷう!

 

 

 原作

文:小暮正夫  絵:箕田源二郎

発行所:株式会社チャイルド本社

みんなで読もう!日本の昔話⑦

『さんまいのおふだ』

 

 

 

 

 

 

 

『マッチ売りの少女』

名作は国境を越え、言葉の違いを越えても名作のはず。その考えから、この本を新潟弁で読んでみたこて。 

よくパロディにされる「マッチを擦る=火遊び」のエピソード。

なぜ、マッチを擦らねばならんかったか。ちと考えて欲しい。

 

原作  アンデルセン

与田準一 ・文 杉田 豊・絵

世界文化社発行 『世界の名作⑦マッチ売りの少女・雪の女王』より

 

                  f:id:wwmaricat:20171015165720j:image

         マッチ売りの少女

さぁめ (寒い)日らった。雪が降ってるんらもん。それは、一年の一番おしまいの日の夕方らった。

薄暗い通りを、ぼろを着た女ん子が歩いてた。帽子もかぶらんで、しかも、裸足らったこて。

うちを出っときには、木靴を履いていたのらろも。こないだまで母ちゃんが履いていた、ちとでっこい木靴。

さっき、道を横切ろうとしたとき、二台の馬車がごったな勢いで走ってきたすけに、あわててよけて、転んでしもて。

片っぽの靴はどっかへ飛んで、もう片っぽは、通りかかった男ん子が、拾って持っていってしもた。

 

前かけにマッチの束をいっぺこと入れて。手にも一束持って。

今日はいっちんち(=一日中)歩いたれも、だんれもマッチを買うてくんねかった。

腹がへって、腹がへって。体もはーっこなって(=冷たくなって)、足は赤と青のぶちになっていたこてや。

 

雪がひらひらと、なーげ (長い)金色の髪に降りかかってきた。どこのちの窓からも、明かりが外まで射して。鳥を焼くいい匂いがぷんぷんしてきたこて。

 「ああ、今日は年越しらった。」

女ん子は、家と家の間の、せーめ (=狭い)空き地の隅っこにしゃがみ込んだれも、さぶさ はひぃどなるばっから(=寒さはひどくなるばかり)。

マッチはひとつも売れてねえし、このままけぇっても、父ちゃんにぶたれるにきまってる。

うちにけぇってもさぁーめしなあ。壊れた屋根からも壁の隙間からも、風がぴゅうぴゅう吹き込むのらもん。

はぁーっと息を吹きかけて手を見っと、死んだような色になっているてば。

「はっこい (=冷たい)、はっこい。あっためねばだめら。」

 

女ん子は、一本引き抜いたマッチの先を、シュッと壁で擦ったいや。

火花が出て、明るい炎が燃えたこて。

なんという不思議な光ら。

あったこて、あったこてぇ。ぴかぴかした真鍮のふたと胴のついた、ストーブの前に座っているようらったこて。

そうら、足もあっためよ、と、急いで足を差し出したれも、もう火は消えて。

ストーブもすうっと見えねなってしもた。

そして、手にはマッチの燃えさしが残っているきり。

 

しかたねぇ。また、新しいマッチを擦ったこて。

マッチの光が壁を灯すと、そこに部屋が現れて。真っ白い布をかけたテーブルの上に、ばかうんめそげなごちそうが並んでいたこて。

そして、ほかほかと湯気を立てた鶏の肉が、ひょいとお皿から、ぴょんとテーブルから、飛び降りて!

ほら、こっちにえんで(=歩いて)くる!

 

そのとき、マッチの火は消えて。

壁は元の冷たい壁にもどってしもた。

 

女ん子は、もう一本、マッチを灯した。

すっと、今度はどうら!  ぴかぴか光るクリスマス ・ツリーの下に座っていたこて。

いつらったか、お金持ちの家の窓越しに見たのより、ずっと、ずっと、ごったなツリーらなあ!

何千というキャンドルが、緑の枝の上で燃えて輝きながら、こっちを見下ろしてる。

 

女ん子が思わず両手を伸ばしたとたん、マッチの火は消えて。

 

無数のクリスマス・キャンドルは、たぁーこ(=高く)、たぁーこ、空へ昇ってって、きらきら光る星たちになったいや。

 

しばらく見上げていたら、やがて星のひとつが、光の筋になって流れ落ちとう。

 「あっ、誰か死んだ。」

女ん子は、今はもうのうなった (=亡くなった)ばあちゃんの話を思い出したこて。

 

   星が流れるとき。 それは、人の魂が神さまのところへ昇って行くときなんらよ。

 

女ん子は、また一本、マッチを擦ったこて。

そうしたら、明るく灯った光の中に、ばあちゃんが。

あの懐かしいばあちゃんが、にこにこして立っていとう!

 

 「ばあちゃん……!   待って!

行くな、行かねでくれ!

マッチが消えたら、行ってしものらろう!

あのストーブや、鶏の丸焼きや、クリスマス・ツリーが消えてしもたみとに!

ばあちゃん、ばあちゃん!  

行かねでくれ! あたしを連れてってくれ!  

連れてってくれ!  ばあちゃん!

連れてってくれてば!

ばあちゃん!

ばあちゃーーーーーーん!」

声の限りに叫んで、残っているマッチをいっぺんに擦ったこて。

 

マッチは燃えて、燃えて、昼間のように明ーるなって。

 

手を広げたばあちゃんは、きれいらった。

 

涙がいっぺこと出たら、

ばあちゃんの顔がめーねなってしもたれも、

ばあちゃんに抱きしめらって、女ん子はほーっとしたいや。

 

もう、さぶさに震えることもね。

腹が減ることもね。

ぶたれるしんぺえもしねたっていいのら。

ばあちゃんと一緒に行くのら。

神さまの国に行くのらから。

 

光が二人を包んで。

その光は、たぁーこ、たぁーこ、星たちの待つ空に昇って行っとう。

 

 

さぁめ、さぁめ、次の朝。

新しい年のお日さまが、小させ体を照らしたろ。年越しの晩に、マッチを一束持って

凍えて死んだ女ん子の。

 「マッチを擦って、あったまろうとしたんらねえ。」

「かぁうぇそに。」

て、見つけた人たちはゆうたれも。

 

口元に笑みを浮かべた女ん子が、

 

どんがにきれいなもんを見たか。

 

どんがに幸せらったか。

 

 

 

知る者はいねかったのら。

         

 

 

 

 

おわり。

 

マッチ売りの少女・雪の女王 (世界の名作)

マッチ売りの少女・雪の女王 (世界の名作)

 

 

 

 

 

 

『わらしべ ちょうじゃ』

元祖ラッキーボーイの超ツイテル道行き話。

はじまり、はじまりー!

 

わらしべちょうじゃ (みんなでよもう!日本の昔話)

わらしべちょうじゃ (みんなでよもう!日本の昔話)

 

 

原作   奈街三郎・文   清水耕蔵・絵   

チャイルド本社  発行                   

   

      わらしべ   ちょうじゃ

 

むかーし昔。あるところに、貧乏らけど、心のやさーし(優しい)若者がいたこてや。

いよいよ、お金が底をついて。

若者は二十一日の間、お寺にこもって、観音さまにお願いをすることにした。

「どうか、どうか。苦労続きのこの俺を、貧しさから救うてくださらねろか……。」

ちょうど二十一日目のことらこて。

若者の夢ん中に、輝く観音さまが現れて、やさーし声でゆうたこて。

「いいか、若者よ。ここを出たらば、一番はじめに手に触れたものを大事に持っていきなされや。」

 

 「あっ!」

若者はお寺の門を出たとたん、石にけつまずいた。

そして、気がつくと、どうしたことら?

一本のわら、わらしべをつかんでいたこて。

 

 いつの間に?

 

若者がわらしべを持ってえんで (歩いて)いくと、アブが一匹寄ってきて、顔のまわりを

ぶんぶん飛ぶ。

「ええい、うるせー虫ら!」

 

若者はアブを手で捕まえっと、小枝の先にわらしべで縛りつけて。 またえんでいったこて。

 

すっと、

「あの虫が欲しー、あの虫が欲しいよう。」

幼児(おさなご)の声が聞こえてきた。

 「欲しいよう、欲しいよう。」

(観音さまにいたでぇた、でえじなわらしべらけど。……あんがに欲しがってんのらから……。)

若者は、アブを枝ごと、その幼児に渡したこて。

すっと、

「わがままゆうて、わーれねぇ。ちぃーとばからけど、お礼らこて。」

ゆうて、子供のかあちゃんが、若者におっきなみかんをみーっつ、くれた。

 「やあ、一本のわらしべが、三つのみかんになったぃやぁ。」

若者はみかんを持って、またえんでいったこて。

 

しばらく行くと、おんなごが、道端にうずくまって休んでいた。

お付きの者がゆうたこて。

「奥方さまはのどが渇いて動かんねのら。どっか、このあたりに、水はねえろかのう。」「水はねえろも……。そうら、このみかんを食えばいいこてや。」

(観音さまにいたでぇた、でーじなみかんらろも、あんがになんぎそうにしてるもん。)

若者は三つのみかんをんーな (みんな、全部)手渡したこて。

 「あーぁ。ありがてことら。助かりましたいね。これはお礼らすけ、受け取ってくれね。」

おんなごは、きれーな絹の反物 (たんもの)を幾つか、若者に差し出したこて。

「やあ、今まで見たこともねえ、ごったいい反物になったぃや!」

若者は反物を抱えて、またえんでいったこて。

 

しばらく行くと、それはそれは立派な馬に乗ったお侍(さむらい)の一行にでおうたこて。

ところが、その馬は、突然苦しみだして、ひんが、ひんが、暴れたかと思たら、ばったり倒れてしもたこて。

 「ええい、この急いでっときに、困ったもんらのう!」

お侍は鞍(くら)や手綱(たづな)を外すと、家来を一人だけ残して、足早に行ってしもた。

(かわぇそな馬らな。ここまで精一杯走って来たのらろう。俺の目のめえで倒れたのは、観音さまのおぼし召しらかもしんねこて。)

若者は絹の反物をひとつ、家来に渡してゆうた。

 「どうか、これでその馬を譲ってくんねかね。」

馬の始末に困った家来は、喜んで反物を持って行ってしもとう。

若者は馬のそばで、一生懸命、観音さまに願ったこて。

「かわぇそなこの馬を、どうか、どうか、助けてくんなせや。死なせねでくんなせや。どうか、どうか。」

すると、馬は若者の声が聞こえたかのよに、耳をピクピク動かして、目ぇをぱちっと開けて。やがてすっくと立ち上がったてば。

 「あぁ、いかったー。助かったなぁ。

よしよし、残りの反物で立派な鞍と手綱を買うてやるすけにな。」お

若者は馬を優しくなぜてゆうたこて。

 

若者の馬を見たもんは、んーな(みんな)こうゆうた。

「おい、見れてば、ごったいい馬らねっか!」

「たーけ銭出して買うたんらろう!」

若者は胸を張ってえんでいったこて。

「ありがてのう。一本のわらしべが、こんがのいい馬になって。」

 

 

馬に鞍をつけ、手綱をひいてえんでいくと、ひーろい田んぼに出て、りっぱなお屋敷が見えてきたいや。

どうやら、引っ越しの最中みとで、屋敷の中から、荷を運び出す者、荷車に載せる者、男衆が忙しそうに働いていたこて。

すっと、

でっこい松の木がある門のとこから、若者を呼ぶ声がした 。

「これこれー、そこの兄さ、ばーかいい馬連れてるねっか。その馬をわしに譲ってくんねか ー!」

 

「こんがの立派な馬が、ちょうど欲しかったところらてば。わしはこれから大急ぎで、遠くの国に行かねばならんのら。わしの屋敷と、畑と、田んぼも、んーなやるすけに、この馬、わしにくんねか?    どうら ?  兄さ。」

 

断る理由があるかてば。若者は喜んで取りかえることにしたこて。

 「やあ、一本のわらしべが、こんがに広い畑や田んぼになったれやぁ。」

 

それからというもの、若者は一生懸命、汗を流して働いとう。

朝はくーれうちから、とっぷり日がくれるまで。あっちぇ日もさぁめ日も、せっせと稼いだこてや。

 

ひーろい畑と田んぼらすけ、何人も人をやとたけど、豆もなすもでえこんも、工夫すればするほどに、おもしぇほど実って。

うんめえ米もいっぺ採れたこて。

 

観音さまに毎んち、礼をゆうことも忘れねで、稼ぎ続けたんや。

 

そうして、

貧乏らった若者は、何年もたたんうちに『長者』と呼ばれる、大金持ちになったってや。

 

いかったねえ。

 

 

 おしまい。

 

 

 

 

 

 

「桃太郎といわれた男」② 乳母探し

昔は寿命が短いから、昔話の婆さはたぶん40代~50代だと思う。出産未経験で、おっぱいの出ない婆さは、どうやって桃太郎を育てたのらろう?


f:id:wwmaricat:20181013005859j:image

 

 

岩の原葡萄園 ももワイン 2018 750ml

岩の原葡萄園 ももワイン 2018 750ml

 

 

 「桃太郎と呼ばれた男」② 乳母探し

 

桃太郎を授かって、婆さは忙しなったこて。

婆さはへえ、歳らもん。

どんがに桃太郎が腹減って泣いたって、乳が出ね。

 

朝は子沢山の栗太んちのでえろこ(台所)行って、かまどで煮炊きの手伝い。

まんまが炊けるまでのえーだ、栗太の母ちゃんの乳を吸わさしてもろう。

 

昼は豆太んちの畑に行って、草取り。

豆太の母ちゃんに日陰で休んでもろて、

豆太がはらくちんなったら、

そのあと、桃太郎も乳を吸わさしてもろう。

 

婆さも、ちと、昼ん寝したあとは、

桃太郎をおぶうて、

「だか(誰か)、この坊に乳くれる姉さはいねろかー。」

ゆうて、時々、すれ違う旅の者にも声掛けながら、山道を行く。

竹屋の母ちゃんがいる作業場までは、

道ともいえね竹やぶの中、えんで(歩いて)行くこて。

 

竹屋の爺さまが、ひーろい竹やぶを手入れしていてさ。

おえてる竹切ってきて、干しといて。

父ちゃんは、昼間、

馬に器用に青竹の竿やかごを結んで乗して、ぽっこ、ぽっこ、売りに行くのさ。

 

三年めえに嫁に来た母ちゃんは、

爺さまと婆さまになろい(習い)ながら、竹かごを編んでる。

竹かごいじって遊ぶ娘のさよは、もう乳は飲まねれも、

母ちゃんは、婆さの川の洗濯仲間ら。

「まだ、乳が出るすけ、桃くんにやる。 なじょも遊びに来いてば。」

ゆうて、乳吸わしてくれ、遊ばしてくれるのら。

ありがてー。ありがてことらねえ。

 

 

桃太郎が一人でとっとこ、えーぶ(歩く)ようになっと。

「おれ(私)の乳飲み来い、」

「おんの(私の)乳吸うてみれ、」ゆうて、

川に洗濯に来るあの姉も、この姉さも、

自分の子に乳やったあと、呼んで遊んでくれるてば。

へえ、子がでっこなったおばも、

着物の胸元ゆるめて、ちと垂れた乳出して呼ぶ。

 

牛や馬連れて、川に水飲ませに来たおじたちは、

「およこ、およこ。乳母がいっぺこといて、ばーかいいねっか、桃太郎!  」

「うらやましてばー。」

ゆうて、にやにやしていたこてや。

 


f:id:wwmaricat:20181013194837j:image

秋のはじめの晴れた日のことらった。

「この村に、仏さまから授かった坊やがいるゆうて聞きましたいね。」

肩に子ザルをのした、旅の薬売りがやって来とう。

時々、村長(むらおさ)に頼まれて、

薬だけじゃね、家畜や、金物の農具、苗や種。いろいろ珍しもんも運んでくるんさ。

 

いっつも猿を連れているすけ、んーなが

「サル」「サルさ」「サルさま」

て、呼んでる男のことら。

子供んときから親と一緒に、旅しながら薬の商売して。

ここら辺りの里や村のこと、なーんでも知ってる男らこて。

 

さて?

もみじ山の里に、桃の木があったろか?

 首を傾げてたけど、サルは、すぐに、

「ほっぺたがふくふくしてぇ、

ばーかいとしげな子らねっかぁ。

そうらか、そうらか、もみじ山の川の流れにのってやってきたのらな。」

ゆうて、桃太郎を抱っこして、

爺さと婆さに、

乳のよう出る食いもんを教えてくれたこて。

 

「ありがて、ありがてねえ。」ゆうて、

爺さはさっそく、

たんぽぽやはこべの若葉を摘んで、

桃太郎の乳母たちに持っていったさぁ。

めったに捕れねろも、

信濃川に網を仕掛けて捕めぇては、

ビチビチ跳ねん、生きのいぃ鯉を運んでいっとう。

 

米や餅米が手に入っと。

婆さと二人で、

栗太んちの栗やくるみ、豆太んちの豆入れて、

だんごや餅をこしょた(作った)こて。

夏の間に刈って干しといた笹の葉に、

くるんで持っていったこて。

あっちにもこっちにも、

いっぺこと生えてる ヨモギ摘んで、

ヨモギ団子も作ったこてさ。

 

 

サルさは、次に来たとき、

山羊を連ってきてくったいや。

 

山羊はヨモギがでえ好きらすけ、

村で試しに飼うてみたらなじら?て

村長にゆうたら、

桃太郎の爺さが、世話してみることになったいや。

旅で疲れたか、しょんぼりした山羊らったれも、

爺さが三日三晩、そばについて、

「よう来た、よう来た。こんがのいい山羊がきて、うれーしれや。」

ゆうて、世話していたら、

いっぺ草食うて、いっぺ乳出すよんなったって。

 

山羊の乳搾って、沸かすときぁ、

栗太んちも、豆太んちも、そこらの村の子ぉんーなに声かけて、

「うんめ。」

「うんめなあ。」

て、んーなで飲んだてば。

 

桃太郎だけじゃね、

んーなが仲ようして、

んーなで村の子供を育てたぁんだてや。

 

 

つづく。

 

 

 

 

 

 

「桃太郎といわれた男」① 誕生

故郷の訛なつかし。
子供のために買った本を、昭和生まれの自分の記憶をもとに、新潟言葉で読んでみれば、ご覧の通り。
「桃太郎」は、確か岡山県の話では?
越後の国に、桃太郎と呼ばれる男(の子)がいたとしたら……。
時々、そんがのことを考える私らこて。

f:id:wwmaricat:20181008022502j:plain

「桃太郎といわれた男」① 誕生


昔むかーし あったてや。

爺さと婆さがいたこてや。

毎日毎日 仏様に
子を授けてくれと拝んだれも、
とうとう授からんで。

あっちぇ夏も、さあめ冬も、
さびーしく暮らしていたこてや。


ある日 爺さは山へ柴刈りに、
婆さは川へ洗濯に行った。

野良仕事で汚った着物(よごったきもん)を
じゃーぶじゃぶ ごーしごし
あろてたら。


どんぶらこー、どんぶらこ。

信濃川に注いでる、
もみじ山の谷からの 流れに乗って、

ひとーつ、またひとつ。
次々、桃が流れて来たこてや。


木から落ちた 桃らろか?
誰か(だか)が落とした 桃らろか?

わからねろも、

婆さは、
一番でっこい桃をなんとかつかまえて、
抱えて家にけえったこて。


「なに? ばかでっけぇ!
これが桃らてか!」

爺さもたんまげたこて。


どうしたもんらか、かんげぇーたけど、
やっぱ、食てみることにした。


まな板の上、のして。

そろーっと包丁で切ろうとすっと。

桃は、ぱかっと、ふたっつに割れて、

ほぎゃーほぎゃーと
元気な坊やが出てきたいや。


桃から生まれたすけに、
桃太郎となめぇをつけて。

爺さと婆さは、
坊やを大事にでえーじに育てたこてや。



つづく。



岩の原葡萄園 ももワイン 2018 [ シードル 750ml ]

岩の原葡萄園 ももワイン 2018 [ シードル 750ml ]