新潟・越後の言葉で語る昔ばなし

昔話を読んだ後、頭に浮かんだストーリーを、故郷の言葉で語ってみたこて。

『へっこきあねさがよめにきて』

 姉さらって、若ーけ女らもん。嫁に来た初めから屁ぇこいてた訳じゃねぇよ。ずうっと我慢してたんらけどね……。

 

へっこきあねさがよめにきて (おはなし名作絵本 17)

へっこきあねさがよめにきて (おはなし名作絵本 17)

 

 

とんとん昔のことらこて。

あるところに、ばばさと兄さが住んでいたこて。そうして、兄さが年頃になったすけに、嫁さんをもろたこて。

嫁さんは山ひとつ越え、川ひとつ渡とて、しゃんしゃん、馬に乗ってきたこてや。

ばーか器量良しで、おとなして、よう働く嫁さんらったすけに、ばばさも

「いい嫁ら。ばかいい姉ら。」

ゆうて、喜んでいたこて。

 

とっころが十日たって、二十日たっていくうちに、嫁さんの顔があーおなってきて。病気みとになったてや。

そっらすけ、ある日、兄さが留守ん時に、ばばさが聞いてみたこて。

「姉、姉、おめ、どっか、あんべぇわーれんじゃねえか。わーれば医者に薬もらえばいいすけに、おらにそうっと話してくんねか。」

姉さは黙ーって、もじらもじらしていたこて。

だって、昔の嫁さんは、どんがなんぎことがあっても、「へい、へい、」ゆうて、お姑さんに仕えんばならんかったもん。

そっでまた、ばばさがゆうたこて。

「今日は兄さもいねこんだし、気兼ねなんかしねで、なーんでもおらに話してくれてば。」

そうしたら、姉さはしょーしげに(恥ずかしそうに)下向いて、ちいせ声でやーっと話したこてぇ。

 

「おら、あの、ほんがのことゆえば、屁がしとて、屁がしとて……。そんらけど、嫁にきたもんが、屁なんかこいたらだめらと思て、我慢してたんら。」

ばばさはこれを聞くと、そっくりけって笑ろたこて。

「姉、姉。屁なんかだっれも出っこてや。我慢なんかしてっと、身体にわーれすけな、いっくらでもこけばいいこて。」

「はあ、おら、ほんがにこいてもいいのらろか。」

 「ああ、いいこてや、いいこてや。なじょもこけばいいこてや。」

ばばさがそうゆうてくれたすけ、姉さは、うれーしなって。うん!と気張って、

ぼんぼん  ぽかーん  

と、こいたこてぇ。

 

その屁のでっけこと、でっけこと。

 

ばばさの身体は、ぶは~と舞い上がって、庭の向こうのでえこん(大根)畑まで飛んでいっとう!

ほんがにたんまげたばばさは、畑に落ちっと、でえこんのあーおい首にしがみついたこて。

「こっれは、おおごとらねっか!  ひとつ引き屁にしてくれやれ、姉ー。」

すっと、姉さのほうも、ばばさを屁でこきとばしてしもて、わーれことしたと思たすけ、すぐに応えたこて。

「ほっしゃー。今、引くれのー!」

今度は思い切り大きく、

すう~ぅっぽんぽん

と、引き屁にしたら、これがまた、でっけこと、でっけこと。

ごったな勢いで引き寄せらったすけ、ばばさは、しがみついてたでえこんを、ズボーンと抜いて。

でえこんと一緒に空飛んで、すとん、と庭先にもどったこてや。

「ああ、やれやれ。」

と、ばばさがでえこんを放したら、姉さはもう、次の屁がこらえらんねて。

 

ぼんぼん  ぼがーん

と、こいたこて。

 

ばばさの身体は、また、あっぱらぱ~んと吹き上げらって、でえこん畑に飛んでいっとう。

「こっらこらぁ、また、おおごとらねっか、姉、姉ー。」

 「ほっしゃ~、今、引くれー。」

すうーぅぽんぽん

姉さが今度も思いっきり引き屁にすっと、ばばさはまた、ずぼーんとでえこん抜いて、空飛んでくる。すとんと庭先に戻っと、姉さが次のをこく。

そうすっうちに、姉さの屁にだんだん弾みがついてきて。

ぽがーん とこいては、すうーうっぽん !

また、ぽがーん  とこいては、すうーうっぽん!

みるみる庭先に、でえこんの山ができていったこて。

 

そこへ、仕事に出てた兄さがけえってきて。

たんまげて、きりきり怒ったいや。そらそうらこてのう。

庭先で嫁が、ばばさを屁でこきとばして、でえこん採りしてんのらもん。

怒鳴った、怒鳴った。

「あぃや、なにしてんのらてば! こんがのおっかねぇ嫁、おら、うちにおいておかんねこてや!  里へけえれ。すーぐけえってくれや!」

 「兄、兄、おら、なじょもけがひとつしてねえてば。こんがに上手に屁えこいたり、引いたりするもん、今まで見たことねえてば。」

ばばさは、いっしょけんめ取りなしてくったれも、兄さは意地んなって、なおさら聞かねかったこてや。

 

そんで、姉さもあきらめて、

「ほんがに、おら、けえされたって仕方がねこて……。そらけど、嫁に来るときらって、連れてきてもろたんらがんね、どうか、里まで送ってくんねかね。」

ゆうて、お願いしたこて。

「ほうせば、おら、送っていくこて。」

兄さは嫁の荷物をしょうて(背負って)、一緒にうちを出たこてや。

 

てくり、てくりと、えんで(歩いて)きて、川の渡し場まで来っと。でーっこい船が米俵をいっぺこと積んで、帆を上げていたこて。

でも、どうしたことら、風がぴたっと止んでしもて。船頭衆がいっくら漕いでも竿さしても、船は動かねかったこて。

その様子を眺めてた姉さは、急にけたけた笑ろてゆうたこて。

「船頭衆がよってたかって、そんがの船も出さんねのらかてや。おららったら、屁えひとつで動かせるてがんね。」

船頭衆は、笑わったすけに、むくれてゆうた。

「何をゆうてんのら、そこのおんなご。そんがのことができんのらったら、米俵幾つでもやるすけ、船出してみれ!」

「ほんが?  ほんがにくれんのらな?   今、出してやっこてや!」

姉さはぶいっと、けつを振り向けて、あのでっこいのをこいてやったこて。

ぼんぼん  ぶおおーっ

 

すっと、大風がぼふぁーぼふぁーと吹きだして。

帆をふくらました船は、ずいーっと、沖へ出ていっとう!

たんまげた船頭衆はんーな、しばらく、ぽけーとしてたれも、やがて、約束のもんをくんねまま、船を漕ぎだそうとしたこてや。

「やれ、待て、待ててばー!  

根性悪らなぁ、米俵くれるゆうたねっか!」

今度は姉さが怒った、怒った。

川岸んとこで、尻向けて仁王立ち。腰に手を当てっと、今度はでっこい引き屁にしたこて。

ずずう  うっぽーん

 

すると、あらあら、船に積んでた米俵が、一俵(いっぴょう)、ひょーんと飛んできとう!

また次、ずずうと引いたらば、二俵目、三俵目が川岸に飛んできたすけに、

「こんがのもんでいいか。」と

やめた。

姉さは、兄さを振り向いてゆうたこて。

「いい帰りの土産ができたこて。おまえさま、一緒にしょうてきてくんねかね。」

 

さて、

川を渡うて、姉さが先にえんでいくと、だんだんと山の坂道になったこて。

「ああ、この峠を越せば、おらの里もじきら。こんがに早よ帰されるなんか、思わんかったれよ。」

姉さらって、普通のおんなごらもん。ちっとばか悲しげんなって。とこり、とこり、と登っていって、やーっと着いた峠で、先に休んだこて。

 

峠には一本、柿の木があって。

熟れて真っ赤んなった実が、いーっぺこと、なってた。

 

そこへ、反物売りが、荷物を積んだ馬を引っ張って登ってきたろ。

背伸びしたり、棒でつついたり、なんとか柿をもごうとしたれも、枝がたーけ(高い)とこにあって、届かんかった。

 

姉さはそれを見てゆうたこて。

「のどが渇いたすけ、おらもひとつ食いてなあ。だんれもいねば、屁こいて落とすんらけどなあ。」

すっと、反物売りがたんまげてゆうたこて。

「はあ?  ふざけたおんなごらなあ、屁こいて柿落とすてか?  落とせっわけねえろう。そんがのことできんのらったら、今、やってみれ!  賭けしてもいいこて!」

「賭けすれば、おらが勝つに決まってるこて。」

「なにゆうてんがあ。柿落とせたら、俺の反物、んーなくれるこて。馬つけてやってもいいこてや。」

「本気らか?  おら、わーれようらなあ。」

「ああ、上等もんの反物ら、馬ごとくれてやっこてや!  そんかわり、いいか、あの柿んーならろ。ひとつも残さず、落とすんらろ!」

反物売りがそうゆうすけに、姉さはまた 。思いっきりきばったこてや。

 

ぽんがぽんがーっ  ぶがぶおぉーっ

と、こいたらば。

 

柿の木がよさん、よさん、と揺れだして。

ぼたくた、ぼたくた、なってる柿が、んーな落ちてしもたこて。

「……。」

反物売りは、ごったたんまげて、声も出ね。へなへな~としゃがみこんでいたこてや。

姉さは、ちっとばかすまなそうにして、

「そしたら、約束らすけにな。おら、そっくりもらっていくこて。」

って、馬ひいて、峠を下ろとしたこて。

すっと、うんしょ、よいしょ、と米俵をしょうてきた兄さが、

「姉、姉、待ってくんねか。」

ゆうて、呼びとめたてや。

「こんがの宝嫁、里になんか帰せっか。おらともう一度、うちに戻ってくんねかや。」

 

姉さは、兄さの声を聞くと、にーんまりとして振り向いたこて。

「おまえさま、こんがのとこまで来て、なんで待ってくれといわっしゃる。おらな、こんがのこともあるかと思て、今、一発きり、残しておいた。」

今度は兄さがぶったまげてしもて。

「姉、姉、おめ、まさか俺までこきとばす気らかや!」

兄さは俵を投げ捨てて、すたこらさっと逃げよとしたこてえ。

逃げよがなにしょが、姉さはかまわず、

 

ぼがーん  ぶっぱっぱあー

と、こきつけてやったこて。

 

そのおしまいの屁が、一番でっけえ屁らったすけに、兄さもたまったもんじゃねえ。

 

空高う、あっぱらぱ~んと飛ばさって。

山ひとつ、川ひとつ向こうまで飛んでいったこて。

 

 

姉さは、馬の背中に、米俵と反物と旅の荷物を載して、今、来た道を、ぽっこ、ぽっこともどってきたこて。

 

うちに着くと。

兄さは庭先の畑に落っこちて、きろーんと目を回しておったこて。でも、どーっこもけがしていねかった。

ばばさは兄さの顔、のぞきこんで、笑うてゆうたこて。

「お前もらか。おら、こうなるものと思うてた。これでいかったこてや。」

 

そっから、兄さは、二度と「里へけえれ。」なんか言わんかったこて。

姉さも前よりいっそう稼ぐ、いい嫁さんになって。

仲良う三人で暮らしたこてや。

 

 

いかったのう。

 

ああ、そうら。

もうひとつ、

おまけの話があるてばの。

 

兄さは家からちいとばか離れたとこに、小屋を作ってくれらったって。

嫁がぼんぼんこきとなったら、いつでもそこで、こいていいよにしてくったってや。

 

それが、今の「部屋」というなめえ(名前)の始まりらったってや。

 

今も、んーな、自分の部屋でこいているのらろかねえ?

 

 

 原作

文:大川悦生  絵:太田大八

発行所:株式会社ポプラ社

おはなし名作絵本17「へっこきあねさがよめにきて」より

 

〔昔から各地で語られていたこのお話。大川さんは、どうしても欲しい場面を創作してつけ足してこの本にしたそうら。私も少々のアレンジを加えてみたこて。

足りないところを加えたり、一部をわかりやすく変えたり、私が読み聞かせをより楽しくできるきっかけになった本ら。吹き出さねで読めるようになるまで数ヶ月かかったけれどね 。〕